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17世紀のイギリスでは、胃痛や痛風などの様々な病気に対して、いわゆる「死体薬」が処方されることがありました。
これは、人間の遺体を原料とした薬です。
例えば、黄疸には、髪の毛を粉末状にしたものを摂取することが良いとされていました。
また、止血には人間の頭蓋骨に生えた苔を塗布するといった方法が用いられていました。
さらにエジプトでは、ミイラを粉末状にして、内服薬や外用薬として利用していました。
特に止血や炎症の治療に効果があるとされ、高価な薬として取引されていました。
当時の医師たちは、死者のエネルギーや生命力が生者に移行すると信じていたのです。
19世紀、ペンシルベニア州の神経科医は、疲労や精神的ストレスを抱える女性に対して「安静療法(rest cure)」を勧めました。
これは、単にベッドで休息するだけのことではありません。
患者は数ヶ月間ベッドに横たわり、大量のミルクを摂取することが推奨されました。
この方法によって、急速に変化する社会の要求から女性を解放し、心身の回復を促すと考えられていたのです。
著名な作家であるヴァージニア・ウルフやシャーロット・パーキンス・ギルマンもこの療法を受けたとされています。
1685年、イングランド王チャールズ2世が脳卒中を患った際、医師たちは彼を救うためにあらゆる治療法を試しました。
その中には、後に「キングスドロップス(King’s Drops)」と呼ばれる薬もありました。
キングスドロップスのレシピは複雑で、アルコールと多くの材料から作られていました。
そして、その中で最も重要な材料だったのが、人間の頭蓋骨をすりつぶした粉末だったのです。
特に「健康で若く、非業の死を遂げた人」の頭蓋骨が理想的だと考えられており、癲癇(てんかん)や脳の疾患に効果があると信じられていました。
当然ながら、王を救うことはできませんでした。
現代でも鍼(はり)治療などは存在しますが、過去の治療法はもっと過激だったようです。
19世紀のドイツでは、病気を治すために皮膚に何度も針を刺す治療法が存在していました。
この治療法は、体内の毒素を排出し、血流を促進すると考えられていました。
棒の先に針が30本ついた特殊な医療機器も使用され、患者を効率的に刺すことができました。
特に、熱病や炎症の治療に用いられましたが、結果的に感染症のリスクを高めることになり、多くの患者が重篤な症状に陥りました。
ここまで紹介してきた「疑わしい治療法」に対して、当時の医師たちはこれらを「最善の方法」として推奨していました。
しかし、科学・医学の進歩とともに、これらの治療の危険性や非効率性が明らかになりました。
もちろん、現代医学も決して完璧ではなく、将来的には「現在の常識」が疑問視される時代が来るかもしれません。
医学の発展には、疑う視点と新たな研究が不可欠なのです。
参考文献
Questionable Cure-Alls: Our Favorite Reads
https://www.atlasobscura.com/articles/questionable-cure-alls
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部