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火星は現在、極寒で荒涼とした砂漠のような環境ですが、約40億年前には地球のように水が豊富な時代があったと考えられています。
その根拠の一つが、火星の地表に見られる河川のような地形や湖の跡です。
たとえば、NASAの火星探査車「パーサヴィアランス」は、火星のジェゼロ・クレーターで三角州の証拠を発見しており、これは火星に長期間にわたって湖が存在していたことを示唆しています。
しかし一方で、火星に「海」が存在したという確固たる証拠はこれまで見つかっていませんでした。
1970年代の探査画像では、火星の北半球に沿って海岸線のような地形が確認されたのですが、その地形の起伏が大きすぎるため、海岸線とは考えにくいとされていました。
また、もし火星に広大な海が存在していたとすれば、その大量の水はいつ、どこへ、どのように消えたのかという疑問もあります。
こうした背景のもと、研究者たちは火星の地下を探ることで、過去の海の痕跡を探すことにしました。
今回の研究では、中国の火星探査車「祝融号(しゅくゆうごう)」が収集した地中レーダーのデータが用いられました。
祝融号は2021年5月15日に、火星北半球の中緯度地方に広がる「ユートピア平原」に着陸し、1年間にわたって探査を行いました。
この地域は、かつて火星最大級の海があったと考えられている場所で、研究チームはこの地下に過去の海の痕跡が残っている可能性を探りました。
祝融号の地中レーダーは地下最大80メートルまで探査でき、今回の調査では地下10〜35メートルの範囲に、海岸堆積物に似た斜めの地層を発見しました。
この海岸堆積物は約36億年前のヘスペリア紀(Hesperian)頃のものと推定されています。
この傾斜した地層の角度は6°〜20°で、これは地球の海岸線に見られる砂浜の堆積物と一致していました。
この発見により、火星のユートピア平原がかつて広大な海に接する「ビーチ」だった可能性が高まったのです。
さらにレーダーはこれらの層に含まれる粒子のサイズを分析し、その大きさや構造が地球の海岸付近に見られる「砂」と一致することを明らかにしています。
研究者たちは、この堆積物が風による砂丘や火山活動によるものではないことを慎重に確認しました。
火星には風で形成された砂丘が数多く存在しますが、これらの堆積物は風で形成された堆積物の特徴を持たないため、風によるものではないと判断されました。
また火山活動による堆積物であれば、溶岩の成分や地層の乱れが見られるはずですが、それも確認されていません。
これらの点から、今回発見された地層は海の波によって海岸線に運ばれ、堆積した砂の層である可能性が極めて高いと結論づけられたのです。
以上の結果は、火星がかつて地球のように温暖で水が豊富な環境を持っていたことを示唆する重要な証拠となります。
今回の研究により、約36億年前の火星に波が打ち寄せるビーチが存在していた可能性が明らかになりました。
火星の過去には、私たちが思っている以上に地球に似た環境が広がっていたのかもしれません。
また海が存在していたとすれば、そこには生命が誕生するための条件も揃っていた可能性があります。
この発見は、将来の火星探査にとって大きな指針となるでしょう。
参考文献
Ancient beaches testify to long-ago ocean on Mars
https://news.berkeley.edu/2025/02/24/ancient-beaches-testify-to-long-ago-ocean-on-mars/
元論文
Ancient ocean coastal deposits imaged on Mars
https://doi.org/10.1073/pnas.2422213122
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部