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今回、NASAの惑星防衛調整局(PDCO)が採用するトリノスケールによる評価では、2024 YR4はレベル3と位置付けられています。
トリノスケールは、地球近傍天体が地球に衝突する可能性と、その衝突によって引き起こされる被害の大きさを、0から10までの11段階で示す指標であり、科学者だけでなく一般市民にもリスクの度合いを直感的に伝える目的で開発されました。
この尺度に基づく評価表では、レベル3は「注意が必要だが、現時点では広範囲にわたる混乱を引き起こすほどのリスクはない」と定義されており、衝突した場合でも、巨大な数キロメートル級の天体による地球全体への被害ではなく、主に局所的な被害が懸念されます。
実際、もし衝突が実現したとしても、2024 YR4は恐竜絶滅の原因とされた数キロメートル級の巨大天体のような全地球的な破滅を引き起こすものではなく、人口密集地に落下した場合に限定して、数百キロメートル圏内で大きな被害をもたらす可能性があります。
過去の事例では、(99942) アポフィスが一時的にトリノスケール4に達したものの、その後の詳細な観測により安全な軌道であることが確認され、最終的にはレベル0に再評価されました。
同様に、(144898) 2004 VD17もかつてはレベル2以上の評価を受けた天体として記録されましたが、これらの例は発見から数十年前のケースであり、最新の天体観測技術ではほとんどの初期高リスク天体が最終的に安全と判断される傾向にあります。
このため、トリノスケールで3以上の評価が継続的に維持されるケースは非常に稀であり、2024 YR4が今回の代表例として特に注目される理由となっています。
2032年以前の2028年には、2024 YR4が地球から約800万キロメートルの距離で接近することが見込まれており、この接近観測によって小惑星の軌道や物理特性がより正確に把握され、最終的な衝突リスクの再評価が進むと期待されています。
また現在、2024 YR4 が衝突する可能性がある地域は、太平洋の中央アメリカ沖から南アメリカ大陸北部、大西洋中部、アフリカ大陸中部、そしてインド周辺までの帯状の地域とされています。
地球近傍小惑星の軌道は、初期の観測データに含まれるわずかな誤差によって大きな不確実性を抱えることが知られています。
その理由は、軌道計算に用いられる位置や速度などのパラメータが、短期間であっても微小な誤差が長期予測において指数関数的に増幅されるためです。
さらに、これらの小惑星は地球だけでなく、月や他の惑星など、周囲の天体からの重力相互作用の影響も受けるため、軌道が時間とともに微妙に変動しやすくなっています。
そのため、追加の観測データが得られると、軌道の不確実性が縮小され、実際に地球と交差する可能性のある軌道部分が明確になり、衝突確率が大きく修正される場合があります。
最初の推定では1%前後だった2032年末の衝突確率が、追加観測データの反映によって2.1%へと上方修正されたことも、こうした不確定要素の反映といえます。
ただし、天文学者たちは「新たな観測や軌道解析によって、今後確率が下がる可能性も大いにある」と強調しています。
ツングースカ規模の衝突と聞くと恐怖を感じるかもしれませんが、2024 YR4の衝突リスクが100%になったわけではなく、私たちには “事前に対策を講じる余裕”があります。
チェリャビンスク隕石のように突然出現した小惑星のほうが、事前警戒や防衛策をとる時間がなく、より危険です。今回のケースでは、2032年までに衝突リスクがほぼ解消されるかもしれませんし、仮にリスクが高まっても、数年単位の準備期間が確保できると期待されています。
参考文献
NASA Continues to Monitor Orbit of Near-Earth Asteroid 2024 YR4
https://blogs.nasa.gov/planetarydefense/
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部