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さらに驚くべきは、ノドグロミツオシエの方も人間と協力することにメリットがあることに気づき、蜂蜜ハンターたちと積極的にコミュニケーションを取り始めたことでした。
というのもノドグロミツオシエは確かに蜂の巣のありかを特定するのに長けていますが、体が小さくて非力なため、蜂蜜を採取するのは苦手だったからです。
彼らが蜂の巣に近づくと、当然ながら主であるミツバチたちが大群で襲いかかってくるため、ケガなしでは済みません。
しかし蜂蜜ハンターたちは蜂の巣を見つけると、煙を焚いてミツバチを気絶させる術を心得ていましたし、道具を使って簡単に幹を割り、蜂の巣を効率的に取り出すことができました。
そしてノドグロミツオシエたちは蜂蜜ハンターが採取した蜂蜜のおこぼれを安全にいただくことができたのです。
蜂蜜ハンターたちも蜂の巣を教えてくれたお礼として、地面に蜂の巣の断片をいくつも置いていくようになりました。
ここから蜂蜜ハンターとノドグロミツオシエは明確な協力関係を築き始めます。
具体的には、蜂蜜ハンターが独特の呼び声を発すると、それを聞いたノドグロミツオシエたちも鳴き声を返しながら、木から木へと飛び移り、蜂の巣のありかへと導いていくのです。
蜂蜜ハンターたちはこの独特の呼び声を父親たちから代々受け継ぎます。
このように、自然界において人と動物が共通の利益を得るために協力する関係は極めて稀なこと。
まさにアフリカの蜂蜜ハンターは、ファンタジーに登場する「鳥使い」のような存在なのです。
蜂蜜ハンターとノドグロミツオシエの協力関係は十分に知られていますが、経済的にどれほど役立っているのかは数値化されていませんでした。
そこでケープタウン大学の研究チームは、モザンビーク北部・ニアサ地域にある13の村で141人の蜂蜜ハンターを対象に調査を行いました。
聞き取り調査のほか、地域の野生生物を記録・保護するコミュニティの監視員が残してきた記録を分析しています。
この記録には過去20年間に収穫された蜂蜜の量が記載されているという。
調査の結果、ニアサ地域には約500人の蜂蜜ハンターがおり、彼らは全体で毎年約1万4000リットルの蜂蜜をノドグロミツオシエの助けを借りて採集していることが判明。
そして収穫された蜂蜜全体の実に75.6%がノドグロミツオシエとの協力で得られていたのです。
収穫された蜂蜜は地元民によって食されるだけでなく、販売もされており貴重な収入源となります。
そのため、飢餓や貧困、失業率が高いニアサ地域において、ノドグロミツオシエは地元民が生きていく上で欠かせない大切な存在となっていることが明らかになりました。
広範な養蜂が行われている他国の地域とは異なり、ニアサでは人間とハニーガイドの関係が今も強く維持されています。
アフリカの蜂蜜ハンターたちは野生の鳥と協力するという、美しい自然の調和の中で暮らしているのです。
こちらは蜂蜜ハンターとノドグロミツオシエの協力関係をまとめたもの。(音量に注意してご視聴ください)
参考文献
Honey hunters in Mozambique use honeyguide birds to locate 75% of their harvest, study finds
https://phys.org/news/2025-02-honey-hunters-mozambique-honeyguide-birds.html
A sweet example of human and wild animal collaboration
https://www.eurekalert.org/news-releases/597547
元論文
The economic value of human-honeyguide mutualism in Reserva Especial do Niassa, Moçambique
https://doi.org/10.1016/j.ecoser.2024.101696
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部