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研究チームがこの新種を発見したのは、意外にも海の中ではなく、オンラインの海産物市場でした。
近年、インターネット上では多様な生物が取引されており、研究者が新種を発見する場としても注目されています。
今回のケースでも、研究者たちは販売されている深海アマダイの写真を分析する中で、特徴的な頬の模様を持つ個体を見つけました。
名前の通り、深海アマダイは水深が深い場所に生息しており、種によっては水深600メートルにまで達することがあります。
この魚は南シナ海の深海に生息しており、漁師たちの間では以前から「幽霊の馬頭魚(Ghost Horsehead Fish)」と呼ばれていました。
しかし、この幽霊の名前が示す通り、漁師たちもこの魚の正体をよく知らず、他の深海魚と混ざって市場に流通していたのです。
新種と認定するには、形態学的な比較と遺伝子解析が必要です。
研究チームは、市場で入手した個体を詳しく調査し、他のアマダイ科(Branchiostegidae)の魚と比較しました。
その結果、この魚の背鰭や尻鰭の形状、鱗の配置などが既存の種と異なっていることが明らかになりました。
さらに遺伝子解析を行ったところ、この魚がこれまで記載されたどの種とも異なる独自の遺伝的特徴を持つことが確認されました。
そして最も際立っていた特徴は、目の下から頬にかけて赤い線模様がすっと入っていたことです。
研究者らは、この赤い模様が映画『もののけ姫』に登場する少女サンに似ていることから、学名を新たに「ブランキオステグス・サナエ(Branchiostegus sanae)」と命名しています。
また映画のタイトルにも含まれる「もののけ」という言葉は、日本の伝承で超自然的な霊や妖怪を指します。
この点も、中国の漁師が「幽霊の魚」と呼んでいたことと一致しており、研究者たちはこの名前を選んだのです。
深海には、まだ知られていない多くの生物が存在しています。
特に深海のアマダイ科(Branchiostegidae)はこれまでに31種しか記載されておらず、新種の発見は非常に珍しいことです。
実際、1990年から2024年までの34年間で、新たに記載されたアマダイ科の新種は、今回の「サナエ」を含めてもわずか3種のみ。
このことからも、深海の生物多様性については、まだ解明されていない部分が多いことがわかります。
今後の研究では、深海魚の生態や進化の過程をより詳しく解明し、新たな種の発見につなげていくことが期待されています。
もしかすると、これからも私たちがよく知るキャラクターにちなんだ名前を持つ新種が続々と登場するかもしれません。
参考文献
New fish species with ‘face paint’ named after Studio Ghibli character
https://www.eurekalert.org/news-releases/1073105?
元論文
Branchiostegus sanae, a new species of deepwater tilefish (Eupercaria, Branchiostegidae) from the South China Sea
https://doi.org/10.3897/zookeys.1227.130512
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部