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クジラは美しい歌を持つことで知られています。
ザトウクジラのメロディアスな歌は広く知られており、古くから人々を魅了してきました。
しかし一方で、この歌がシャチに聞こえてしまうと、クジラ自身が狩りのターゲットになってしまう可能性があります。
シャチに見つかったとき、ヒゲクジラの行動には主に2つに分かれます。
1つは「戦闘派」で、もう1つは「逃走派」です。
戦闘派にはセミクジラ、ホッキョククジラ、コククジラ、ザトウクジラが含まれ、シャチに襲われると群れで反撃することがあります。
対する逃走派にはシロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラが含まれ、シャチの襲撃を受けるとすぐに逃げる傾向があります。
そして今回の新たな研究で、戦闘派と逃走派には歌い方に大きな違いがあることが判明しました。
この研究では、以下のような方法を用いてクジラの鳴き声とシャチの聴覚能力の関係を調査しました。
その結果、「逃走派」のクジラの鳴き声は100Hz未満であることが多く、シャチにはほとんど聞こえないことが判明したのです。
一方、「戦闘派」のクジラの鳴き声は1500Hz以上のものも多く、シャチが容易に聞き取りやすいことがわかりました。
さらに逃走派のクジラの鳴き声は長時間持続する単純なパターンであることが多く、遠くの仲間にメッセージを伝えやすい反面、シャチに聞こえにくいという利点もあることが明らかになりました。
つまり、戦闘派はシャチに歌が聞こえてもいいから闘う方を選び、逃走派は低周波の鳴き声を使うことで、そもそもシャチに存在を気づかれにくくしていたのです。
この研究は、クジラが単なる受動的な捕食対象ではなく、進化的に音響戦略を発達させていることを示唆しています。
しかしこの「音響ステルス」戦略がどこまで効果的なのかは、今後の研究でさらに詳しく調査する必要があります。
例えば、シャチは狩りの際にエコーロケーションを使いますが、ヒゲクジラがそのエコーロケーションを回避する方法についてはまだ十分に解明されていません。
また気候変動によって海の環境が変わることで、クジラの鳴き声の伝わり方に影響が出る可能性もあります。
クジラたちがシャチから身を守るためにどのように進化してきたのか、これからの研究がさらに明らかにしてくれるでしょう。
海の中では、私たちが想像するよりもはるかに複雑な「音の戦略」が繰り広げられているのです。
参考文献
Ghostly flight species of baleen whales avoid attracting killer whales by singing too low to be heard
https://fish.uw.edu/2025/02/ghostly-flight-species-of-baleen-whales-avoid-attracting-killer-whales-by-singing-too-low-to-be-heard/
元論文
Most “flight” baleen whale species are acoustically cryptic to killer whales, unlike “fight” species
https://doi.org/10.1111/mms.13228
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部