- 週間ランキング
ペットとのふれあいがストレス軽減に効果的であることは、これまでの研究でも広く知られています。
例えば、犬や猫と過ごすことで、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が低下し、幸福感を高めるオキシトシンが増加することが報告されています。
しかし、ペットを飼うことができない人も多く、その代替としてロボットによる癒しの研究が進められています。
これまでに開発されたセラピーロボットとしては、アザラシ型ロボット「パロ(PARO)」や、ぬいぐるみ型ロボット「Qoobo」などがあります。
これらのロボットは、触れることで癒しを提供するものですが、これまでのセラピーロボットは「人がロボットに触れること」が前提でした。
しかし、筑波大学の研究チームは、「ロボットのほうから人に触れることで、より自然な癒し効果が得られるのでは?」と考えました。
そこで着目したのが、猫のすり寄せ行動。
猫が頭をすり寄せると、私たちは無意識のうちに「愛されている」と感じ、リラックスします。
もしロボットが同じ動作を再現できれば、ペットを飼えない人や、高齢者のメンタルヘルスにも役立つ可能性があります。
では、ロボットによるすり寄せは、本当に人間の緊張を和らげるのでしょうか?
筑波大学の研究チームは、猫のすり寄せ行動を再現するロボットを開発しました。
このロボットの最大の特徴は、「首の柔軟性を変えられる可変剛性機構」を搭載している点です。
この機構により、ロボットはより自然なすり寄る動作を実現できるようになりました。
そして研究チームは、このロボットを用いて、ロボットのすり寄る動作が人間のストレスに与える影響を検証しました。
実験には筑波大学の学生22名が参加し、ロボットの首の剛性を3つの異なる設定(低剛性、高剛性、可変剛性)に調整しました。
参加者はロボットを抱え、40秒間すり寄せ動作を体験しました。
この体験の前後で、気分を測定する「Temporary Mood Scale(TMS)」質問紙を用いて緊張度を測定し、ロボットとの接触がどのように心理状態に影響を与えるか調査しています。
実験の結果、すべての設定において、ロボットと触れ合った後に参加者の緊張度が有意に減少することが確認されました。
統計的には3つの設定間で有意な差は認められませんでした。
しかし、参加者の自由記述では、「剛性が変わると本物のように感じられ、最もリラックス できるように思えた」「強弱の違いが感じとれて、より生命感があり自然に思えた」など、可変剛性設定に対してポジティブなコメントが多く寄せられており、剛性変化の有望性が示唆されています
この研究は、ロボットが人にすり寄ることで、ストレス軽減に役立つ可能性があることを示しました。
今後の課題としては、可変剛性機構を改良し、より自然な動作を実現したり、長期的な使用による心理的影響を調べたりする点が挙げられます。
未来のセラピーロボットは、より動物に近い動きをすることで、ペットを飼えない人の心の支えとなる可能性があります。
21世紀のネコ型ロボットは、「頭をすり寄せる」癒し系なのかもしれません。
参考文献
猫のように頭をすり寄せてくるロボットを開発し、その癒し効果を検証
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20241225140000.html
元論文
Development of a Robotic Device that Performs Head Bunting to Relieve User Tension
https://doi.org/10.1145/3700600
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部