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そのため、注意の方向を少し変えるだけでゴリラにはすぐに気づいてしまいます。
実際に被験者に対して「黒服チームが何回パスをしているか数えてください」と指示すると、約83%の人はあっさりとゴリラに気付きました。
それから何の指示も与えずに「ただ映像を見てください」と指示した場合も、多くの人がゴリラの存在に気付いています。
ゴリラが見えなくなったのは、自らの注意を白服チームにのみ向けて、他の一切を意識から排除した人なのです。
非注意性盲目はこの実験だけでなく、私たちの日常の中でもごく普通に起こっています。
例えば買い物中など、お目当てのブランドを求めて服を物色している場合はそれ以外のブランドが目に入らなくなったり、書店でも好きな作家さんの本を探しているときには、他の作家さんの本に気づかなくなることがありませんか?
それで後日、同じ店舗を訪れたときに「あれ、この作家さんの本も置いてあったんだ。前は気づかなかったな」といったことが起こるのです。
他にも、混雑したカフェで空席を探しているときに、偶然いた友人が手を振ってきてもすぐには気づかないことがあるでしょう。
それは「空いている席を見つける」ことに注意が向けられているため、それ以外のことが意識から排除されてしまったためです。
さらにシモンズは「見えないゴリラ」とは別に、私たちがどれだけ非注意性盲目にかかりやすいかを示す面白い実験を行いました。
その実験で被験者は、目の前の人がまったくの別人に入れ替わったことにさえ気づかなかったのです。
シモンズは米コーネル大学のキャンパス内である実験を行いました。
ここでシモンズは観光客を装い、無作為に歩行者に近づいて「すみません、図書館はどこですか?」と地図を指し示しながら尋ねます。
歩行者が「ここを真っ直ぐ行って、突き当たりを右に曲がって… 」と説明している最中に突然、ドアを持った作業員(別の研究者が扮装した人物)が強引に2人の間を通り抜けます。
その間に観光客役のシモンズと作業員役の研究者がドアの後ろですばやく入れ替わるのです。
そして作業員役は何事もなかったかのように歩行者と会話を続けました。
その結果、驚くことに15人中8人は目の前の人物がまったくの別人にすり替わっていることに気づかずに道を教え続けたのです。
こちらが実際の実験映像です。
作業員役が会話を遮って「1分前にドアが通ったとき、何か変わったことに気づきませんでしたか?」と尋ねると、「ああ、あの作業員はずいぶん態度が悪かったですね」と答えた歩行者もいたといいます。
これも「見えないゴリラ」と同様に、図書館までの道のりを教えることに注意が向けられるあまり、その他の変化を見逃してしまったのです。
このように私たちの視覚的な注意は意外とザルであり、かなり大胆な出来事にも気づかないことがあります。
…と言っている間にも、皆さんの周りで何か大きな変化が起きているかもしれませんよ。
参考文献
Bet You Didn’t Notice ‘The Invisible Gorilla’
https://www.npr.org/2010/05/19/126977945/bet-you-didnt-notice-the-invisible-gorilla
元論文
Gorillas in our midst: sustained inattentional blindness for dynamic events
https://doi.org/10.1068/p281059
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部