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私たちの太陽系は、一つの「ぽつんとした星の卵」から静かに生まれたわけではないかもしれません。
むしろ、より大きな星々が集まる“にぎやかな星団”の中にあって、その中の大質量星が最後を迎える際のエネルギッシュな出来事――すなわち重力崩壊型超新星爆発――を経て誕生したと考えられています。
たとえばオリオン座大星雲を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
この星雲には若い星が密集しており、その中には太陽の何十倍もの質量を持つ巨星が大迫力で輝いています。
そうした“大きく、熱く、短命な星”は、寿命の終わりに超新星爆発を起こし、周囲のガスや塵を一気に吹き飛ばすのです。
では、なぜその“吹き飛ばし”が太陽系にとって重要なのでしょうか。
実は、この超新星爆発によって放出されるガスやダスト(塵)には、新たな星や惑星をつくるために欠かせない重元素や放射性元素が数多く含まれています。
今回の研究では、その中でもアルミニウム26やチタンの特定同位体が注目されました。
これらの物質は大質量星の中核や爆発過程で効率よく作られることがわかっています。
たとえば「太陽の25倍ほどの質量をもつ恒星」は、その代表例だと言えます。
こうした大質量星は寿命が数百万~数千万年ときわめて短く、燃料を使い果たすと同時に内部が崩れ、激烈な超新星爆発を起こします。
その爆発で放出された物質が、近くの分子雲(星の卵となるガスのかたまり)に注入されると、そこで生まれようとしていた小さな星の材料を一気に“化学的に豊か”にするのです。
つまり私たちの太陽系も、この壮大な星の最期の“贈り物”を受け取った可能性が高いというわけです。
実際の観測でも、オリオン座やはくちょう座などの星形成領域には大質量星が多数存在し、互いに影響を及ぼし合いながら、新たな星や惑星が次々と生み出される様子が確認されています。
私たちの太陽系も、そうしたにぎやかな星団の中で“母なる大質量星”と運命をともにしたと考えられるのです。
この「大質量星の最後の輝き」は、太陽系の材料となるガスや塵を“こねて”くれたと表現してもよいでしょう。
そう想像すると、46億年前のドラマチックな舞台が目に浮かんできます。
そして、その証拠は隕石の中にしっかりと残されていたのです。
大質量星が散り際に放った“贈り物”は、どのように今の太陽系へと受け継がれたのでしょうか。
その答えを知るための重要な手がかりが、実は隕石に秘められています。
隕石は、小惑星帯や彗星など、太陽系の“端っこ”や“あいまいな境界”で作られた天体のかけらが地球に落下してきたものです。
その多くは、46億年前の太陽系が誕生し始めた頃の“化学的な指紋”をほとんど失わずに保存している、言わばタイムカプセルです。
というのも、私たちが普段触れる地球の岩石は、長い年月の間に火山活動やプレート運動で再加工され、46億年前の姿はすっかり“塗り替え”られています。
その点、小惑星などは内部に地質活動がほとんど起こらず、形成直後の状態を保ち続けたまま今日に至りました。
そこから落ちてきた隕石は、太陽系最初期の物語を閉じ込めた鉱物サンプルなのです。
そんな隕石の中には、今回の研究で大きな役割を果たす2つの“しるし”が刻まれています。
1つはアルミニウム26と呼ばれるアルミニウムの放射性同位体です。
アルミニウム26は、半減期が約73万年と短いため、現代の地球や若い隕石にはほとんど残っていません。
しかし、太陽系最初期(約46億年前)の隕石には、その娘核種であるマグネシウム26(26Mg)の過剰量という形で痕跡が刻まれています。
これほど大量のアルミニウム26がどうやって太陽系に供給されたのかは、長らく謎とされてきました。
赤色巨星やウォルフ・ライエ星、さらには白色矮星が起こすタイプの超新星爆発など、多様な起源が議論されてきたものの、決定打に欠けていたのです。
もう1つはチタン同位体 (チタン46、チタン50 など) です。
チタンは壊変しない安定同位体ではあるものの、特定の核反応過程(たとえば大質量星の内部や超新星爆発)でしか生成されない“異常”な組成を持つことがあります。
そこで研究者たちは、同じ隕石中のアルミニウム26の痕跡やチタン46やチタン50の状態を調べることで「どのような爆発現象がいつ起き、どの程度の量が太陽系に混ざったか」を一挙に推定できる「アルミニウム–チタン宇宙核時計」と呼ばれる新手法を開発しました。
そして実際に隕石の微量同位体組成を丹念に調べると、「ある地域(小惑星や彗星の母天体)にはアルミニウム26やチタン同位体が多い」、「別の地域には少ない」といった不均一な分布が見えてきました。
これは、太陽系が形づくられるほんの数百万年~数千万年のあいだに、“母なる大質量星”が供給した物質が円盤の一部(主に外側)に偏って混ざったことを示唆しています。
さらに今回の研究では、隕石中に残るアルミニウム26量(実際には崩壊生成物であるマグネシウム26量)と、チタン同位体(チタン46やチタン50など)の偏りに強い相関があることが示されました。
これはアルミニウム26とチタン同位体の“セット”が同じ時期に、大質量星(重力崩壊型超新星)から供給されたことを示唆します。
さらに、研究チームはこの相関を利用して、これらの物質がいつ供給されたかを調べたところ、太陽系最古の隕石が形作られる約90万年前(= 0.9百万年前)に爆発が起きたと推定され、しかもその爆発は太陽系の材料となった分子雲から見て100光年以内という近距離で起きた可能性が高いことがわかりました。
こうした結果を受けて浮かび上がってきたのが、「太陽系の元となる分子雲に、大質量星由来のアルミニウム26とチタン同位体が同時に混入し、外側ほど多く蓄積された」というストーリーです。
隕石はそのプロセスをありのままに封じ込めており、“母なる大質量星”の足跡を今に伝えてくれているのです。
ある意味で、大質量星の「最後の輝き」は太陽系にとっては「誕生の助走」でもあったわけです。
また技術的な面においても、今回の発見は重要です。
これまで隕石年代測定においてアルミニウム26が太陽系全体で均一だと想定することで算出してきましたが、それが外側に偏っていた場合、年代測定の結果が大きくズレてくるからです。
さらにアルミニウム26は、その崩壊熱によって微惑星や惑星胚(エンブリョ)の内部を温め、分化や核形成を促進する重要な熱源だったと考えられています。
今回明らかになった不均一分布や爆発時期を考慮すると、惑星の形成や進化がどのタイミングで進んだのかを、従来モデルからアップデートすることもできるでしょう。
46億年前、私たちの太陽系は何もない静かな空間でひっそり生まれたわけではありませんでした。
近くにいた大質量星が起こした壮絶な超新星爆発によって撒き散らされた放射性アルミニウムやチタン同位体の痕跡を、隕石がしっかりと刻み込んでいたのです。
そこから見えてきたのは、私たち自身の“母なる星”が、その大質量星だったかもしれないという壮大なドラマでした。
巨大な星が最後を迎えて散りゆく瞬間に、新しい星系の素となる物質を供給したことで、太陽系はより豊かな元素を得て現在のかたちへと進化してきました。
大質量星の“最期の贈り物”がなければ、地球や生命に必要な重元素は十分に供給されなかったかもしれません。
私たち地球生命が命を維持するには、炭素や水素といった主だった軽い材料だけでなく、微量ながら重たい金属も必要だからです。
大質量星が燃え尽きる際の閃光こそが、あとに続く星や惑星の“誕生スイッチ”を押すことだってあるのです。
また、研究によって開発された「アルミニウム−チタン宇宙核時計」は今後、惑星形成理論を再構築する重要な手がかりとなり、星間空間の化学進化や他の恒星系の成り立ちまで見通す足掛かりにもなるでしょう。
たとえば太陽系には、オウムアムアなど太陽系外に起源をもつ小惑星がまれに通過することが知られていますが、こうした系外天体を分析すれば、太陽系以外の恒星系の起源にも迫れるはずです。
さらに、これまでに得られていた隕石のPb–Pb年代や、ほかの短寿命放射性同位体(^53Mn–^53Cr、^182Hf–^182W など)のデータと組み合わせれば、それぞれの隕石母天体がどのような温度環境や時間スケールで形成・進化したのかを、いっそう高精度で再構築できる可能性が開けます。
たとえば小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った試料のような新鮮なサンプルにも応用すれば、太陽系初期の微惑星形成過程や、地球型惑星とガス惑星の差異を生じさせた要因について、より正確なイメージを得られるでしょう。
参考文献
散りゆく大質量星の傍らで太陽系は生まれた—— 超新星爆発の年代をアルミニウム−チタン宇宙核時計で計測——
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10631/
元論文
Timescales of Solar System Formation Based on Al–Ti Isotope Correlation by Supernova Ejecta
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ada554
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部