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この地球近傍小惑星「2024 PT5」は、直径が約10メートルであり、スクールバスほどの大きさです。
2024年9月から11月にかけて、2024 PT5は地球を数週間にわたり周回し、その後、地球の重力圏から脱出して、再び太陽を周回する自由行動に移りました。
このような現象は極めて珍しく、観測のチャンスも限られていることから、人々の関心を集めました。
では、一時的に地球を周回する小惑星は、どこから来るのでしょうか?
これまで地球近傍小惑星の多くは、火星と木星の間にある小惑星帯から来ると考えられてきました。
しかし、2024 PT5の軌道や物質的特性は、この常識では説明がつきません。
自然の天体であるにもかかわらず、地球に非常に近い軌道を長期間維持しており、外来天体としては異例の特徴を持っていたのです。
そこで今回、カレタ氏ら研究チームは、2024 PT5の正体を明らかにするため、天体の反射スペクトルを調べました。
この手法では、天体の表面がどのような物質で構成されているかを特定できます。
彼らは、アポロ計画やルナ計画で持ち帰られた月の岩石サンプルと2024 PT5のスペクトルを比較しました。
その結果、2024 PT5の表面組成が月面の岩石と驚くほど一致することが判明しました。
この小惑星には、月に見られる「ケイ酸塩の鉱物」が豊富に含まれていることが確認されたのです。
一時期、「ミニムーン」などと呼ばれ、話題になっていた「2024 PT5」は、本当に月の一部だったかもしれないのです。
そしてその可能性は、もう1つの調査によってより真実味を帯びてきました。
スペクトル分析に加えて、2024 PT5の軌道特性も重要な手がかりとなりました。
地球を周回する物体は、漂う人工物(例えばロケットの部品。つまり宇宙ゴミ)である場合もあります。
その場合、一般的には太陽放射圧(太陽光が天体に与える微小な圧力)によって軌道が変化するという特徴が見られます。
しかし、研究チームによる2024 PT5の詳細な軌道解析では、2024 PT5にはそのような挙動が観測されませんでした。
2024 PT5の軌道特性は、小惑星帯から来た天体や人工物では説明が難しいものだったのです。
これらの観測結果から、研究チームは2024 PT5が自然に形成された天体であり、「月のかけら」である可能性が極めて高いと結論付けました。
この発見は、これまであまり知られていなかった「月由来の小惑星」の存在に光を当てるきっかけとなっています。
これまでに月由来の小惑星として知られているのは、”469219 Kamo‘oalewa“です。
Kamo‘oalewaは2016年に発見された”準衛星”と呼ばれる軌道を持つ天体であり、以前の研究で月の岩石と一致するスペクトルを持つことが確認されています。
この天体は、「過去に月で発生した衝突によって放出された物質かもしれない」と考えられてきました。
そのため2024 PT5に関する新しい理解により、Kamo‘oalewaと同様の特徴を持つ月由来の天体が他にも存在する可能性が明確に浮き彫りになりました。
従来、小惑星帯からやってくる天体がほとんどだと考えられてきた地球近傍小惑星ですが、月面からの噴出物が地球近傍軌道で存在するケースがあるというわけです。
さらに、このような天体の発見は、月と地球の力学的相互作用を理解し、未解明の月面衝突の歴史を明らかにしてくれる可能性があります。
今回の発見は、地球近傍小惑星の起源に関する理解を深めるものです。
今後も、このような「月のかけら」が、月に関して多くのことを語ってくれるに違いありません。
参考文献
Study Finds Earth’s Small Asteroid Visitor Likely Chunk of Moon Rock
https://www.jpl.nasa.gov/news/study-finds-earths-small-asteroid-visitor-likely-chunk-of-moon-rock/
元論文
On the Lunar Origin of Near-Earth Asteroid 2024 PT5
https://dx.doi.org/10.3847/2041-8213/ad9ea8
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部