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これは日本人なら多くの人が日常的に実感していることではないでしょうか?
例えば、少々体調が悪くても「仕事を休むと会社に迷惑がかかる」と思って無理に出勤したり、精神的な悩みを抱えていても周りに相談できず、一人で抱え込んでしまうことが多々あるかもしれません。
こうした集団主義文化ならではの考えが、困っている人自ら社会的支援を求めにくい環境を作り出している要因であると以前から指摘されています。
その一方で、本研究チームは「社会的支援の求めづらさに繋がっているのは『集団の調和を崩したくない』という理由だけではないのではないか?」と考えました。
そこでチームが注目したのは、困っている人に対する日本人の思いやりや同情心の程度についてです。
これは学術的に「共感的関心(Empathic concern)」と呼ばれるもので、簡単にいうと、誰かが困難や苦痛に直面しているときに、その人を助けたいと感じる心理のことを指します。
先行研究では、共感的関心が低いと、社会的支援を求めづらい状況が促進される可能性が示唆されています。
というのも、共感的関心が低い社会集団では「困っている人を助けたい」と思っている人が少ないわけですから、困っている人自身も「多分、悩みを訴えても誰も助けてくれないだろう」と社会的支援への期待が薄くなるためです。
チームはこれが日本人にも当てはまるかどうかを検証しました。
今回の調査では、日本人の共感的関心の程度を明らかにすべく、アメリカ人を比較対象としました。
1つ目の実験では527名のアメリカ人と522名の日本人を対象に、共感的関心の程度や困っているときに周囲に助けを求める程度、それから他者が手助けしてくれることをどれだけ期待しているかについてアンケート調査に回答してもらいました。
その結果、アメリカ人は「自分が困っていたら誰かが助けてくれるだろう」と、社会的支援への期待値も高いことがわかりました。
一方、「自分が困っていても助けてくれる人は少ないだろう」と考える傾向が強かったのです。
ではなぜ日本人はそのように考えるのでしょうか?
2つ目の実験では398名のアメリカ人と381名の日本人を対象に、「自分が困難や苦痛に直面しているのは、社会規範や秩序をはみ出したり、違反した報いである」と考えるかどうかに回答してもらっています。
すると、日本人はアメリカ人に比べて「自分が困難や苦痛に直面しているのは、自分が社会的規範や秩序を違反したからだ」と考える傾向が強かったのです。
この考え方は他者に対しても同様であり、日本人の多くは「困難に直面するのは自業自得だ」と考えていました。
そして、このように考える傾向が強かった人ほど、共感的関心(困っている人への思いやり)が薄いことも示されました。
それゆえ日本人は困っている人への思いやりや同情心が薄くなり、「誰かが自分を助けてくれる」という期待値も低くなることで、社会的支援を求めづらい環境に繋がっているというのです。
実際に日本はイギリスやフランス、スウェーデンなどの先進諸国に比べて、生活保護の申請率が低く、現に生活保護を利用できている人の割合も低いというエビデンスがあります(PDF)。
イギリスやフランス、スウェーデンでは、生活保護を利用する資格のある人のうち、実際に利用できている人の割合は90%に達していますが、日本では20%ほどしかありません。
この背景には、今回の研究で示されたように、「自分が困っているのは自分のせいであって、生活保護を受けるのは恥ずかしいし申し訳ない」といった思い込みや「誰かが苦しんでいるのはその人の責任であって、こちらが助けるいわれはない」といった意識につながっている可能性があります。
確かにネット上でも、困っている人に対して「自業自得だろ」と冷淡な反応を見かけることは多く、「確かに」と同意してしまう人も多いかもしれません。
しかし誰かが苦しんでいるのはすべてがその人の責任ではありませんし、社会はそうした困難に直面している人を助けるために存在しているはずです。
今こそ、自己責任の重荷によって日本人の優しさが押しつぶされないような社会づくりを目指すべきではないでしょうか。
参考文献
日本人は困っている人への同情が低い ~社会支援行動と文化的背景の関係性を解明~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/12/post-769.html
元論文
Empathic concern promotes social support-seeking: A cross-cultural study.
https://doi.org/10.1037/emo0001451
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部