- 週間ランキング
冬の楽しみの1つは「カニ」だという人は少なくありません。
ズワイガニやタラバガニが旬な季節であり、おせち料理に入れたり、家族でカニ鍋を楽しんだりするかもしれません。
また北海道や鳥取県、兵庫県などに旅行した際には、新鮮なカニを食べたいと思うことでしょう。
このように、多くの日本人にとってちょっと特別で豪華な食材のカニは、奇妙な見た目とは裏腹に、殻に包まれた身を食べると独特の風味と甘さを有しています。
とはいえ、いつも私たちが食べている「カニの身」は、実は筋肉であり、脂肪が少なく味自体は淡泊です。
では、カニの風味や美味しさはどこから来ているのでしょうか。
それにはカニに含まれるエキス成分(アミノ酸などで構成される)が大きく関係しています。
例えば、そのうちの1つであるアミノ酸「グリシン」は自然な甘みと旨味を有しており、甘味度は砂糖の約70%です。
カニの身を食べた時に「甘くて美味しい」と感じるのは、こうしたエキス成分が含まれているからなのです。
だからこそ、加熱調理や解凍を失敗すると、それら旨味エキスが流出してしまい、「水っぽい」「味がない」と感じてしまいます。
ここまでで、カニの身とその美味しさの秘密について考えてきましたが、カニ好きには見過ごせない別の部位があります。
それは、カニの甲羅に隠された少量の「カニミソ」です。
カニミソには独特の風味と濃厚な味わいがあり、「手間をかけても食べたい」という人が少なくありません。
しかし、カニミソがどんな食べ物なのか誤解している人もいます。
その名称から「脳みそ」だと思っているかもしれませんが、実は全く違います。
では、カニミソの正体はいったい何なのでしょうか。
カニの甲羅を取り除くと見られる茶色から濃緑色のペースト「カニミソ」の正体は何でしょうか。
「カニミソ」という名前ですが、当然、味噌でも、脳みそでもありません。
カニミソは、カニの中腸腺(ちゅうちょうせん)と呼ばれる器官です。
中腸線は、エビやカニなどの節足動物の消化腺です。
ここは、脊椎動物の「肝臓」に相当する栄養摂取に関わる生理機能と、「膵臓」に相当する消化酵素を分泌する機能を有しています。
そのため、中腸線は「肝膵臓」とも呼ばれていました。
私たちは、カニの肝臓や膵臓のような部位を、カニミソと称して食べていたのです。
ちなみに、私たちは、カニ以外にも中腸腺を食べることがあります。
例えば、イカの塩辛にはイカの内臓が使用されますが、これは主に中腸腺のことです。
イカの塩辛特有の味わいは、この中腸線や発酵・熟成過程が関係しているのです。
また「肝臓を食べる」という習慣自体も一般的であり、アンコウの肝臓である「あんきも」、ガチョウやアヒルの肝臓である「フォアグラ」などが有名です。
とちらも、なめらかで濃厚な味わいが特徴の珍味ですが、「カニミソ」を食べることもこれらに近い食習慣なのかもしれません。
ここで、カニミソについてもう少し詳しく考えてみましょう。
私たちがカニミソを食べる時、実はそこにカニの中腸腺以外のものが含まれているケースがあります。
それが中腸腺近くにある「精巣」や「卵巣」です。
オスの場合、中腸線近くには白い粒が帯状になった精巣(または白子)があり、濃厚な味わいを楽しめます。
「カニミソ」として提供される場合、中腸線に精巣が含まれることが少なくありません。
またメスの場合は、甲羅の中に、鮮やかなオレンジ色をした「卵巣(または内子)」があります。
こちらも珍味であり、人によって好き嫌いが分かれますが、こちらも濃厚でクリーミーな味わいを楽しむことができます。
加えてメスでは、茶色い粒々の「カニの卵(外子)」が入っている場合もあります。
魚卵のようなプチプチとした食感ですが、味はほとんどありません。
カニミソと内子・外子は、はっきりと区別できますが、調理の際に混ぜたり、そのまま一緒に啜って食べたりすることも多いでしょう。
カニミソの正体は、カニの肝臓や膵臓にあたる部分でした。
精巣や卵巣と共に食べることもあり、これがカニミソをいっそう深い味わいにしています。
次にカニを食べる時には、旨味エキスを含んだカニの身と、生命力を凝縮したようなカニミソを、もっと楽しめることでしょう。
参考文献
Crab Innards
https://www.seriouseats.com/the-nasty-bits-crab-innards
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部