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また、トイレ掃除の際、コロナウイルスやノロウイルスを防ぐため、どこを重点的に掃除したり除菌したりすべきでしょうか。
こうした疑問の答えを、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)の福田隆史氏ら研究チームが提出しました。
彼らは水洗トイレ洗浄時に発生するエアロゾルの空気分布を測定し、トイレをした後の水洗で、個室内のどこにどの程度ウイルスが飛散するか示しました。
この研究結果を知るなら、トイレでの立ち振る舞いがいくらか変化することでしょう。
研究の詳細は、2024年10月28日付の産総研の『プレスリリース』にて報告されました。
また、2024年11月3日~7日にBorneo Convention Centre Kuching(マレーシア クチン市)で開催される「第13回Asian Aerosol Conference(AAC)2024」にて発表される予定です。
目次
コロナ禍以来、衛生管理の重要性が再認識されています。
特に、私たちの目に見えない「飛沫」「エアロゾル」の存在を意識する人が増えました。
その点、「水洗トイレで水を流した時に、粒子がどのように広がるのか」という疑問を抱いたことのある人も少なくないでしょう。
実際、アメリカのコロラド大学ボルダー校(CU-Boulder)の2022年の研究では、トイレの水を流した時に汚水のエアロゾル粒子がどのように広がるか、レーザーを用いて可視化しました。
この実験では、動画から明らかなように、フタを開けて水を流すことで、エアロゾル粒子はロケット噴射のように舞い上がり、そこから部屋中に広がることが分かりました。
では、どんなケースでも同じように飛沫やエアロゾルは広がっていくのでしょうか。
また、フタを閉めていれば問題ないのでしょうか。
このような、より具体的な疑問の答えを提出するため、産総研の福田隆史氏ら研究チームは、水洗トイレにおける飛沫の挙動を可視化し、様々な観点から分析しました。
彼らは最初に、便器のフタが空いた状態で、大きさの異なる飛沫やエアロゾルがそれぞれどのような挙動をするのかレーザーを用いて可視化しました。
その結果、大きな飛沫は放物線を描いて落下するのに対し、小さな粒径(10μm以下)のエアロゾルは浮遊し、気流によって流動していることが分かりました。
このサイズのエアロゾルは、トイレの個室内に数分~数十分間漂う可能性もあります。
加えてこの実験では、便座手前側で大きな粒径の飛沫が多く発生し、便座中央から置く側で粒径10μm以下のエアロゾルが多く発生していることも明らかになりました。
次の実験では、フタを開けた便器から発生するエアロゾルの粒子数と空間分布を測定しました。
その結果、エアロゾルは均等に広がるのではなく、前後に指向性を持って放出されていることが分かりました。
これは便器内の水流が作る空気の流れが影響していると考えられます。
加えて、湿度ごとの実験により、環境湿度が高くなるにつれて、発生するエアロゾルの総体積が増大することも分かりました。
湿度30%と70%では、4.6倍の差が生じており、高湿なトイレではエアロゾルが発生・拡散しやすい状態にあることも分かりました。
例えば東京では、1日の平均湿度が70%を越える日が、1年で約200日もあるため、ウイルス感染の面で一層注意が必要です。
では、便座を閉めていれば、どんな場合でも安全なのでしょうか。実はそうでもないようです。
研究チームは、フタの開閉によってエアロゾル発生にどのような違いが生じるのか、粒径1 μmのエアロゾルの空間分布の測定結果を図で示しました。
当然ながら、フタを閉めることで上方へのエアロゾル発生・拡散は無くなります。
しかし、使用者側に15cmほどの距離までエアロゾルが噴出することが分かりました。
これは、フタと便器の隙間から水流によって便器内の空気が押し出されることによって生じると考えられます。
この結果からすると、フタを閉めて水を流す時には、少なくとも便器から15cm以上離れるべきだと分かります。
そうしなければ、自分の足が、汚水やウイルスを含んだエアロゾルを浴びてしまうことになるでしょう。
また別の実験では模擬ウイルス試料を使用し、フタを閉めた状態で水を流した時に、便器や個室内に付着するウイルスを定量化しました。
その結果、便器内に排出されたウイルスは、便器の外にも排出され、様々な場所に付着すると分かりました。
例えば個室内の壁には33%ものウイルスが付着しており、不用意に壁を触るべきではありません。
壁際にある「小物を置くための棚」には、スマホなどを置いてしまいがちですが、そうすることでウイルスがいくらか付着する恐れがあります。
トイレの後に手を洗って除菌したとしても、そのままスマホを触りながら食事に戻ったりするなら、ウイルスを体内に取り入れてしまう危険があるのです。
そして、コロナウイルスやノロウイルスに感染した人がトイレを使用した後には、付着率の高い「フタの裏」や「便座裏面」などもしっかりと除菌することで、感染リスクを低減できると分かります。
ちなみに男性であれば、アレが便器前方(図の③や④周辺)に接触するというアクシデントはよく経験していると思いますが、これも付着ウイルスの観点で考えると危険だと分かります。
日本のトイレは世界的に見て非常に清潔ではあるものの、こうした研究結果を活用することで、一層清潔で、感染リスクに配慮したトイレへと進化させられるかもしれません。
個人としては、トイレの水を流す際、フタを閉めて少し離れることを徹底し、その上で、ウイルスが付着しやすい場所の掃除を入念に行うことで、感染リスクを低減していけるでしょう。
参考文献
「便器のふたを閉めて流してください」は衛生的か?
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241028/pr20241028.html
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部