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このエアロゾルを監視することで、感染リスクの高い場所を特定し、感染拡大を防ぐための迅速な対応が可能になります。
しかし、現行のウイルス検出方法は、現場での即時検出が難しく(現場でウイルスを採取し、研究所で別途PCR検査)、また、精度や感度にも限界があります。
この問題を解決するために、エアロゾル中のウイルスを高感度で検出できるRIAMシステムが開発されました。
このRIAMとは、「リアルタイム・エアロゾル・インテリジェント・モニタリング:Real-time Intelligent Aerosol Monitoring」と呼ばれ、さまざまな状況でのウイルス検出を目的としており、それぞれが異なる用途に応じて設計されています。
まず、このシステムの核となるのが、超高感度のDNA検査用に新たに設計された完全密閉型のマイクロ流体カートリッジと超高感度なPCR検出技術です。
この方法では、キトサンで処理された石英フィルター(微細なエアロゾル粒子やウイルス粒子を捕集)を使ってウイルスのDNAを抽出し、その後、同フィルター上で直接PCR法を用いてウイルス量を検出してます。
この方法により、従来では200〜500コピー/mLのウイルス濃度が必要だったのに対し、RIAMではわずか10コピー/mLという非常に低い濃度のウイルスでも検出可能となりました。
この感度の高さにより、空気中に漂うウイルスの微量な存在さえも見逃しません。
下図に示すように、この研究では、空気感染の状況に応じた3種類のウイルスモニタリングシステム(M-RIAMs、S-RIAMs、R-RIAMs)が開発され、それぞれ異なるシナリオに応じた運用が可能です。
例えば、M-RIAMsは複数のサンプルを同時に分析できるため、広範なエリア(クリニック、患者病棟、会議室等)でのウイルス監視に適しています。
また、S-RIAMsは定置型で、特定の場所で継続的にリアルタイムモニタリングを行うため、人の介入無しに長時間の遠隔監視が可能となっています。
一方、R-RIAMsは移動型(ロボット)で、大規模な屋内空間でのウイルス検出に向いています。
実際にRIAMシステムを使った実験では、新型コロナウイルス患者病棟でのエアロゾルモニタリングが行われました。
コロナウイルスの症状別の各病棟で採取した、エアロゾル中のウイルス濃度を調べたケースでは、ウイルス検出率(ウイルスの存在割合)が患者の軽症から重症までの状態と非常によく一致していることが確認されています。
これは、エアロゾルによる新型コロナウイルスの監視が、感染リスクを評価する上で非常に有効であることを示しています。
全体として、このシステムは空気中のウイルスを高感度で連続的に検出する能力を持っており、特定の場所でのウイルスリスクを正確に評価することが確認されました。
空気中に浮遊するウイルスは、人々の健康にとって大きな脅威となります。
特に、新型コロナウイルスやその他の呼吸器ウイルスが原因の感染症は、感染が広がると大きな問題になります。
このようなウイルスをモニタリングすることは重要ですが、今までは、迅速かつ正確に検出できる装置が不足していたため、空気中のウイルスを監視することが難しかったのです。
今回開発されたRIAMシステムは、以前のものに比べて3つの重要な改良が施されています。
具体的には、空気中のウイルスを効率よく集める装置、ウイルスを検出するための化学的な仕組み、そしてマイクロサイズのカートリッジの設計が改善されました。
この結果、RIAMシステムは市販されている検査キットよりも10倍以上の感度を持つようになりました。
さらに、空間の中でウイルスの濃度を非常に細かく把握できるようになり、既存のシステムに比べ最も感度が高いウイルス検出システムとなっています。
3種類のRIAMシステムが開発され、様々な環境で使えるようになり、病院や学校、空港などでの高感度のウイルスモニタリングが可能になります。
たとえば、病棟や公共の場所では感染拡大を防ぐために、また幼稚園や老人ホームでは弱い立場の人々を守るために活用できます。
現在のRIAMシステムの欠点としては、一度に空気中のウイルスを4種類しか検出できない点が挙げられます。
空気中には様々な病原体が存在しているため、将来的には検出できるウイルスの種類を増やす必要があります。
また、システムの改善点としては、コストを下げること、検査時間を短縮すること、自動で装置を掃除できるようにすることなどが考えられます。
加えて、空気中のウイルスをどのように効果的に収集するかについても、さらなる研究が必要です。
RIAMシステムの開発は、空気中のウイルス監視技術における大きな進歩です。
特に、パンデミックの再発や季節性の感染症が懸念される今、リアルタイムかつ高感度なウイルスモニタリングは、社会の安全を守るための重要な要素となるでしょう。
この技術がさらに発展すれば、私たちの生活圏における感染リスクを、より迅速かつ正確に評価できるようになるかもしれません。
病院や公共施設だけでなく、家庭や職場など、さまざまな場所でのウイルス監視が当たり前になる未来が近づいているのです。
元論文
Multi-scenario surveillance of respiratory viruses in aerosols with sub-single-copy spatial resolution
https://doi.org/10.1038/s41467-024-53059-x
ライター
鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。
編集者
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。