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二重構造モデルは元々、古代日本人の頭骨の形態分析にもとづいて提唱されたものですが、これまでの遺伝子研究により、実際に現代日本人が縄文人と渡来人の混血集団の子孫であることが科学的に支持されています。
それらの遺伝子研究によると、現代日本人の核ゲノム(※)の成分は、
・縄文人に由来する成分(縄文系成分)
・東アジア系集団に特徴的な成分(東アジア系成分)
・北東シベリア系集団に特徴的な成分(北東シベリア系成分)
の3つに大別されることがわかっています。
(※ 核ゲノム:常染色体と性染色体の全遺伝情報のこと。ヒトの染色体は1つの細胞に46本あり、うち44本が常染色体で、2本が性染色体。
常染色体はタンパク質合成などの情報を持つ染色体で、性染色体は男女の性別の情報を持つ染色体です)
現代日本人の遺伝子を見ると、縄文人の遺伝子の割合はわずかに2割、残りの8割は東アジア系と北東シベリア系が占めています。
しかしこれら8割の成分を現代日本人がどのように獲得したのか、すなわち「渡来人がいつどこからきたのか」が具体的にわかっていなかったのです。
そこでチームは、山口県にある土井ヶ浜遺跡で見つかった弥生時代人の遺骨を調べてみました。
土井ヶ浜遺跡は山口県の西端、下関市の豊北町(ほうほくちょう)にある弥生時代の遺跡です。
本調査では、この遺跡で発掘された約2300年前の弥生時代人の遺骨を対象としました。
土井ヶ浜遺跡ではこれまでに約300体の遺骨が出土しており、それらの形態を調べてみると、弥生時代人は縄文人に比べて顔が長く、平坦な顔つきをしており、平均身長が2〜3センチ高くなっていたことがわかっています。
これらは渡来人のDNAによって付け加えられた特徴のようです。
チームは今回、土井ヶ浜の弥生人骨からDNAを抽出し、全ゲノム配列を解析することに成功しました。
そして渡来人のルーツを明らかにするため、縄文人・古墳時代人・現代日本人、さらに東アジア系および北東シベリア系集団のゲノムデータと合わせて統計解析したところ、次のことが確認されています。
(1)土井ヶ浜の弥生時代人は、現代日本人と同様に3つのゲノム成分を有していた
(2)土井ヶ浜の弥生時代人は、解析した集団の中で古墳時代人に最も遺伝的に近く、次いで現代日本人、古代韓国人、現代韓国人の順に近縁であった
これを踏まえてチームは次に、東アジア系および北東シベリア系の両方のゲノム成分を有する「現代韓国人」を日本列島に渡来した集団と仮定し、その集団が縄文人と混血して現代日本人が生まれたというモデルを評価しました。
その結果、この単純でシンプルなモデルが見事に、土井ヶ浜の弥生時代人、古墳時代人、および現代日本人のゲノム成分をうまく説明できることが判明したのです。
これらの結果は、東アジア系と北東シベリア系のゲノム成分をあわせもつ集団が弥生時代に朝鮮半島から日本列島に流入し、縄文人と混血して誕生した集団が現代日本人の祖先となったことを強く支持しています。
つまり、渡来人は今日の韓国人に近い東アジア起源であり、彼らが弥生時代に日本に流入し、土着の縄文人と混血したことで今日の日本人が誕生したと考えられるのです。
本研究の成果から、渡来人の具体的なルーツが解明されたことで、現代日本人の遺伝的な形成過程に対する理解が一層深まることが期待されています。
これまでの予想通り朝鮮半島から来た渡来人と縄文人の混血が日本人のルーツという考え方が変わるわけではありませんが、渡来人の遺伝的なルーツが明らかにされることで、よりはっきりと私たち日本人に至るまでの古代の人々の流れが見えてきました。
今日の私たちはどこから来て、どのように誕生したのか、その遺伝的な道筋が完全解明される日は近いでしょう。
参考文献
弥生時代人の古代ゲノム解析から渡来人のルーツを探る
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10527/
元論文
Genetic analysis of a Yayoi individual from the Doigahama site provides insights into the origins of immigrants to the Japanese Archipelago
https://doi.org/10.1038/s10038-024-01295-w
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部