石を舐める……そんなこと、普通の人はあまりしないですよね。

でも、実は地質学者にとっては、これが重要な作業の一つなのです。

今回は、地質学者がなぜ石を舐めるのか、どのような鉱物が危険なのかについて、科学的な理由を分かりやすく解説していきます。

 

 

目次

  • 石を舐めて何が分かるの?
  • 舐めてはいけない鉱物に要注意
  • 地質学者の非公式ルール

石を舐めて何が分かるの?

視覚、触覚および味覚の全てを使って石を特定します。/ Credit : Canva

地質学者が野外調査を行う際、多くの場合は時間が限られた状況下で鉱物を特定しなければなりません。

岩や鉱物は、それぞれ異なる特性を持っており、見た目だけでは判断しづらい場合もあります。

そこで、視覚だけでなく、味覚を使うというユニークな方法が登場するのです。

「石を舐める」という行為は、一見すると奇妙に思えるかもしれませんが、実は科学的な根拠に基づいています。

鉱物にはそれぞれ異なる化学組成があり、その組成が味に現れることがあるのです

例えば、岩塩(NaCl)は、塩辛い味がするため、見た目が似ている石膏や方解石と簡単に区別できます。

また、地質学者はカオリナイトといった粘土鉱物を舐めることもあります。

粘土性の鉱物は、舌にくっつく触感を持っており、その粘着性を感じ取ることで特定できるのです。

他にも、シルト岩(粘土サイズより大きい粒子を含む)と頁岩(粘土サイズの粒子を含む)の違いも舐めることでわかります。

シルト岩は、粒子が大きく、舌や歯にざらざらとした触感を与えます。

一方、頁岩は粒子が非常に小さく、滑らかな触感が特徴です。

このように、視覚だけでなく触感も重要な要素となるのです。

鉱物の表面を舐めることは、単に味や触覚を試すだけではありません。

湿らせることで、石の色や光沢が際立ち、観察しやすくなるのです。

乾燥した岩石の表面は、色がくすんで見えたり、光沢が分かりにくくなったりしますが、少し湿らせるとその特徴が鮮明になります。

こうして、地質学者はより正確な鉱物の特定ができるのです。

しかし鉱物の中には、舐めてはいけないものも存在します。

舐めてはいけない鉱物に要注意

左から、人体に有害な鉱物である輝安鉱、辰砂、燐灰ウラン石、見かけたら要注意です。/ Credit : ja.wikipedia

地質学者が石を舐める行為には、リスクも伴います。

なぜなら、一部の鉱物は有毒だからです。

特に、明るい黄色やオレンジ、赤、緑色をした鉱物には要注意です。

これらの鉱物には、鉛やヒ素、銅、ウランなどの有害な成分が含まれている可能性があり、舐めると健康に害を及ぼすことがあります。

参考として、以下に危険な鉱物を一部紹介します。

方鉛鉱(PbS)– その美しい光沢には要注意!

方鉛鉱は、金属光沢を持つ美しい硫化鉛の鉱物です。

一見して輝くような姿は魅力的に見えますが、決して舐めたり触れすぎたりしてはいけません。

この鉱物に含まれる鉛は、粉塵を吸い込んだり、体内に取り込んだりすると非常に有害です。

特に、鉛は神経系に深刻な影響を与えることで知られています。

長期間にわたって鉛にさらされると、脳や体に深刻な損傷をもたらすことがあるため、絶対に注意が必要です。

辰砂(HgS)– 赤く美しいけれど、実は超有毒!

鮮やかな赤色を持つ辰砂(シンシャ)は、硫化水銀の鉱物です。

その美しい色合いに目を奪われるかもしれませんが、辰砂に含まれる水銀は非常に有毒です。

水銀中毒は、神経系、消化器系、そして免疫系に悪影響を及ぼし、最悪の場合、死に至ることもあります。

古代の錬金術師たちは辰砂を使用していたと言われていますが、現代ではその危険性が広く知られており、触れないことが鉄則です。

輝安鉱(Sb2S3) – 鋼色に輝くが、アンチモンを含む危険物!

輝安鉱は、鮮やかな鋼色の金属光沢を持つ硫化アンチモン鉱物です。

その輝く外観とは裏腹に、含まれるアンチモンが非常に有毒です。

アンチモンは人体に重大な健康リスクをもたらし、長期間さらされると皮膚障害、胃腸障害、呼吸器系障害、心血管疾患などを引き起こす可能性があります。

この鉱物は、見た目の美しさに惑わされず、十分に距離を置いて観察することが大切です。

石黄(As2S3)– 鮮やかな色が危険のサイン!

石黄はオレンジや黄色の鮮やかな色を持つヒ素の硫化鉱物です。

見た目が素晴らしいため、アートや装飾品として使われることもありますが、これは非常に危険です。

ヒ素はどの形態でも有害であり、特に吸入や摂取によって深刻な健康リスクをもたらします。

皮膚病変、代謝疾患および神経疾患などを引き起こす可能性がありこの鉱物に触れる際には、適切な保護具が必要です

燐灰ウラン石(Ca(UO2)2(PO4)2·10–12H2O) – 放射性ウランに注意!

燐灰ウラン石は鮮やかな緑色をしたウラン鉱物で、含水カルシウムウラニルリン酸塩として知られています。

この鉱物はウランを含んでおり、放射性物質を体内に取り込むと、がんのリスクが増大します。

ウランを含む鉱物は、常に放射能の危険があるため、特に取り扱いには厳重な注意が必要です。

硫酸銅(CuSO4·5H2O)– 水溶性の銅汚染を引き起こす?

硫酸銅は理科の実験などで目にする機会もありますが、実は自然界では非常に稀であることが知られています。

(※自然界の鉱物名はゴシュアイトと呼ばれています)

硫酸銅は水に溶けやすく、環境中で銅汚染を引き起こす原因となることがあります。

水に溶けた銅は、植物や動物に有害であり、摂取すると消化器系の問題を引き起こすことがあります。

見た目は美しいですが、この鉱物に触れる際には手袋を着用し、周囲の環境にも注意することが重要です。

地質学者の非公式ルール

最後に、地質学者が鉱物を舐める際の非公式ルールを以下に紹介します。

まず最初に、石全体を舐める必要はなく、舌先で軽く触れるだけで十分です。

また、舐めるのは主に淡色で透明感のある岩石に限られ、金属光沢のある鉱物や鮮やかな色をしたものは避けましょう。

これらの鉱物は、有毒な成分を含んでいる可能性が高いためです。

さらに、舐めるのは短時間で行い、長時間口に含むことはありません。

あくまで鉱物を識別するための一瞬のテストであり、安全を最優先に行動します。

そしてこれらの鉱物に触れた後は、必ず手をよく洗うようにしましょう。

このルールを覚えておけば、将来なんらかの理由で石を舐める仕事に就いたときに役立つはずです。

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参考文献

Licking Rocks in Geology : Why &How (Answered by Geologist)
https://howtofindrocks.com/licking-rocks-in-geology/

ライター

鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。

編集者

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 地質学者が「石を舐める」理由とは?