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さらに南アフリカとカナダにある金属鉱山では、地下2キロメートル以上の深い坑道から採取された地下水が、20億年前に形成された古い地層の中で、10億年以上にわたり地上からの水と混じることなく封じ込められていたことがわかっています。
したがって、古い時代の地層には10億年スケールで地上から隔離された超閉鎖的な環境が継続し、その環境で微生物が進化しないまま今日も生き永らえている可能性があるのです。
この実例を見つけ出すため、研究チームは最も有力な場所の一つである南アフリカの「ブッシュフェルト複合岩体」をターゲットに地層の掘削調査を行いました。
ブッシュフェルト複合岩体とは、南アフリカ北東部に広がる火成岩からなる地層です。
この地層は20億年前にマントルから上昇して地殻に入り込んだマグマが冷えて固まり、岩石化したことがわかっています。
2024年4月から国際陸上科学掘削計画(ICDP)のプロジェクトチームによる掘削作業をスタートしており、10月現在で地下1000メートルに到達しています。
研究チームは今回、このブッシュフェルト複合岩体の掘削から得られた岩石試料を持ち帰り、薄片サンプルを観察しました。
そして薄片サンプルを入念に調べた結果、岩石内部に見られる亀裂の隙間に密集した微生物の痕跡が見つかったのです。
具体的には、多数のDNAを含んだ微生物の細胞が確認されています。
さらにチームは赤外分光法という方法を用いて、DNAを染色した微生物細胞から「タンパク質」の存在を見つけることに成功しました。
タンパク質はその生物が「代謝」や「遺伝子発現」といった生命活動を行っている証拠となります。
すなわち、これらの微生物が20億年前に形成された岩の中で今も現役で命を繋いでいることを指し示していたのです。
これに加えてチームは、微生物の見つかった岩石の亀裂の隙間が粘土(火成岩が地下水と反応して形成されたもの)で詰まっていたことを発見しました。
このように粘土がフタをしていたことで、岩石の隙間には外部から微生物が入り込めないこと、それと逆に隙間の微生物は外部に移動しづらくなっていることが判明しました。
つまり、今回見つかった微生物は掘削のプロセスで外部から混入したものではなく、約20億年間にわたりこの岩石内部で脈々と世代を繋いできたと考えられるのです。
研究者らは、微生物たちが岩石内部で利用可能な無機および有機物を代謝することで生存してきたと考えています。
チームは次なるステップとして、ゲノム解析を行って、これらの微生物がどれだけ進化しているかを明らかにする予定です。
もし20億年もの間、微生物が岩石内部でほとんど進化しておらず、原始的な状態を留めているのであれば、地球の生命の起源や初期の生命進化の謎を解き明かす重大な情報が得られると期待されています。
しかし、この20億年前の岩石は現時点で、”史上最も長く続いている生物の楽園”と呼べるでしょう。
参考文献
20億年前の岩石内部に生きた微生物を発見 —粘土で詰まる隙間に高密度で生息—
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10513/
元論文
Subsurface Microbial Colonization at Mineral-Filled Veins in 2-Billion-Year-Old Mafic Rock from the Bushveld Igneous Complex, South Africa
https://doi.org/10.1007/s00248-024-02434-8
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部