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その一方で「真実性の錯覚」に関する研究はこれまで、一般的な知識や雑学に焦点を当てたものがほとんどでした。
そのため、実際的な議論やテーマにおける主義・主張に対して「真実性の錯覚」が起きるかどうかは確かめられていませんでした。
そこで研究チームは今回、世界的に大きな関心事となっている「気候変動」をテーマに、この心理効果が起きるかどうかを検証してみました。
現在、主に人為的な原因によって、地球規模で温暖化が起こっていることは97%以上の気候科学者が同意している事実です。
つまり客観的に見れば、「気候変動が地球規模で起こっている」という主張は正しいことになります。
その一方で、世の中には気候変動懐疑論者が存在しており、彼らは「地球温暖化は嘘である」「温暖化の原因は人為的なものとは関係ない」「気候変動は心配すべきものではない」といった科学的に根拠のない情報を発信しています。
どちらを信じるかは人々の自由ですが、チームは今回の調査で、気候変動を信じている人と信じていない人の両方を対象に、自分の信念とは反対の意見に何度もさらされた場合に「真実性の錯覚」が起きるかどうかを調べてみました。
本調査ではアマゾンのウェブサービス「Amazon Mechanical Turk」を通じて募集した172名の参加者を対象に、2つの実験を行いました。
1つ目の実験には52名が参加し、2つ目の実験には120名が参加しています。
どちらの実験でも参加者は「気候変動を支持する主張」と「気候変動に懐疑的な主張」の両方が入り混じった一連の発言を読まされました。
しばらく時間を置いてから、参加者は別の一連の発言を見せられますが、その中には新しい主張とは別に、前の実験に含まれていたのと同じ主張がいくつか組み込まれています。
この実験を何度か繰り返した後、参加者はそれぞれの主張がどの程度真実であると思うかを評価しました。
それと並行して、参加者自身が気候変動を支持している派か、懐疑している派かも調べられています。
その結果、気候変動を支持している参加者は一貫して、気候変動が実際に起こっていると主張する発言を正しいと評価し、それに反する懐疑的な主張は真実性が低いと評価していました。
ところが実験を繰り返す中で、気候変動に懐疑的な発言に何度もさらされた参加者は、気候変動に対して科学的に正しい認識を持っているにも関わらず、自分の信念に反対する意見を信じやすくなっていたのです。
さらに興味深いことに、これと同じ現象は逆の立場でも起こっていました。
つまり、普段は気候変動に懐疑的な参加者も、気候変動を支持する発言を何度も読んでいると、その主張が正しいらしいと評価し始めたのです。
これは「真実性の錯覚」が気候変動という実際的なテーマにおいても起こり得ることを証明するものでした。
研究主任のノアバート・シュワルツ(Norbert Schwarz)氏は「参加者が事前に信じている立場が違っていても『真実性の錯覚』が同じように起こることには驚きました」と指摘。
「気候変動を信じている人も信じていない人も、自分とは反対の意見に繰り返しさらされることで、その発言を信じるようになっていたのです」と話します。
では「真実性の錯覚」はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?
研究者によると、「真実性の錯覚」が起こるメカニズムには、情報の「処理流暢性(processing fluency)」が大きく関わっていると話します。
処理流暢性とは、ある情報が脳内で処理される際のスピードや容易さを示します。
脳内での処理が簡単な情報ほど、そうでない情報に比べて理解されやすく、記憶もされやすいので、私たちの脳はその情報を「親しみやすい」「正しい」と感じやすくなるのです。
要するに、何度も繰り返し聞いた情報は処理がスムーズになるので、脳が「この情報はよく知っているから正しそうだ」と誤って判断する要因となります。
今回の研究は、科学的に正しい情報を人々に広める上で、「真実性の錯覚」が応用できることを示していますが、他方で使い方次第では悪用もできてしまう可能性があります。
例えば、政治的な主張や自然災害時の情報など、誤った言説を何度も繰り返し発信していると、人々がそれを信じ込んで、間違った行動を取ってしまいかねません。
特に自然災害時の場合は、そうした行動が命の危険につながる恐れがあります。
私たちは繰り返される情報を無意識に信じやすくなっているので、一度自分で調べてみることが重要になるでしょう。
参考文献
Repetition boosts belief in false climate claims, even for climate science advocates
https://www.psypost.org/repetition-boosts-belief-in-false-climate-claims-even-for-climate-science-advocates/
元論文
Repetition increases belief in climate-skeptical claims, even for climate science endorsers
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0307294
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部