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COVID-19(新型コロナ)や、インフルエンザなどの呼吸器感染症(または気道感染)の原因は、それらを引き起こすウイルスであり、飛沫などで感染します。
感染者が吐き出したウイルス入りの飛沫が空気中に漂うと、私たちは鼻からそれらを吸い込んでしまいます。
そしてそれらウイルスは、鼻腔の内壁細胞に感染し、増殖。
新たに感染してしまった私たちは、自覚症状の有無に関わらず、くしゃみや咳をした時、笑ったり歌ったりした時、ただ呼吸をするだけでも、ウイルス入りの飛沫を空気中にばらまくようになります。
これらを防ぐために、私たちはワクチンを打ったりマスクをしたりします。
しかし、ワクチンでは副反応が強く出るために、なるべく接種したくないと考える人もいるでしょう。
またマスクについても、これだけでウイルス感染を完全に防げるわけではありません。
そこでカープ氏ら研究チームは、従来の感染対策に追加で使用し、感染予防を強化できる「鼻スプレー」を開発することにしました。
彼らは、アメリカ食品医薬品局(FDA)による「過去に承認済みの点鼻薬」や、「GRASリスト(一般的に安全と見なされている物質のリスト)」に含まれる成分に着目しました。
そして、それらの成分を使用した新しい鼻スプレーを開発し、「PCANS:Pathogen Capture and Neutralizing Spray (病原体捕捉・無効化スプレーの意)」と名付けました。
PCANSを使用すると、鼻の内側を覆うジェルが形成されます。
そして、このジェルが吸い込まれた飛沫を捕らえ、ウイルスを固定して、死滅するまで動けなくします。
もともと鼻には粘液が備わっており、ウイルスや細菌などの異物を排除する働きがあります。
しかしこれら防御機構には限界があり、空気の乾燥やストレスが原因で粘液の量や質が低下する場合があります。
またウイルスの量が多かったり強力だったりすると、粘液をすり抜けてしまいます。
だからこそPCANSのジェルがもたらす追加の強力なバリアは、感染予防を強化する上で効果的なのです。
しかもPCANSにはいかなる種類の薬剤も含まれておらず、アレルギー反応を引き起こす恐れがありません。
では、この新しい鼻スプレーは、実際にどれほどの効果をもたらすのでしょうか。
研究チームは、新しい鼻スプレー「PCANS」を使ったマウス実験を行いました。
その結果、PCANSは、マウスに適応させたインフルエンザウイスからマウスを保護することができました。
致死量の25倍のウイルスにさらされた場合でも、たった1回のPCANSの投与で、マウスは保護されました。
また、PCANSを投与されたマウスは、未投与のマウスと比較して、肺のウイルスレベルが99.99%以上も減少し、肺の炎症細胞(感染に対処し、体を守るために炎症反応を起こす細胞)も正常のままでした。
そして、PCANSはマウスの鼻に最大8時間留まり、感染防止の効果を発揮していました。
もし、人間にも同じ効果を発揮するのであれば、外出時の保護を強化したい場合、1日1.2回の投与だけで済むことになります。
加えて研究チームは、人間の鼻の3Dプリントモデルを使用した実験も行いました。
そのモデルの鼻腔にPCANSを噴霧すると、PCANSは、鼻の粘液だけの場合と比較して、2倍もの飛沫と捕らえると分かりました。
そして研究チームは、PCANSに関して次のように述べています。
「PCANSはジェルを形成し、強力なバリアを作り出します。
そして、インフルエンザ、SARS-CoV-2、RSウイルス、アデノウイルスなど、私たちがテストしたすべてのウイルスと細菌のほぼ100%をブロックし、無効化しました」
とはいえ、この新しい鼻スプレー「PCANS」には、まだ安心できない部分が残っています。
ヒトで直接試したわけではないため、私たちに対して実際にどれほど効果的なのかは分かりません。
またPCANSの使用感も気になるところです。
研究チームは、「PCANSのジェルは使用者の呼吸に影響を与えない」と主張していますが、このあたりは実際に人が使って確かめるべきでしょう。
強力なジェルが鼻の内部にまとわりつくのであれば、何らかの不快感やデメリットがあってもおかしくないからです。
とはいえ、全体的に考えると、PCANSは私たちに大きな期待を抱かせるものです。
「1日に1.2回鼻スプレーするだけ」という手軽さと、「マスクなどの従来の感染対策に追加できる」ことは、アレルギーで悩んでいる人、大事な会議を控えている人、大きなイベントに出向く人の需要にぴったりなはずです。
参考文献
Drug-free nasal spray prevents infection by trapping viruses in the nose
https://newatlas.com/disease/pcans-nasal-spray-traps-viruses/
Preclinical Studies Suggest a Drug-Free Nasal Spray Could Ward Off Respiratory Infections
https://www.brighamandwomens.org/about-bwh/newsroom/press-releases-detail?id=4807
元論文
Toward a Radically Simple Multi-Modal Nasal Spray for Preventing Respiratory Infections
https://doi.org/10.1002/adma.202406348
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部