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アクティブな通勤、通学は、運動そのものを目的としなくても、運動をしたのと同じような効果が得られる点が魅力です。
新型コロナウイルスの流行以降、広まった在宅ワークには便利な側面もありますが、今回の結果を踏まえると、体を動かす機会が減り、不便になったという側面もあると言えます。
ただ、注意したい結果として、自転車通勤者は、交通事故による入院リスクが1.98倍になっていて、交通事故に遭遇するリスクも浮かび上がってきました。
ダンダス教授らも、自転車通勤者は交通事故による入院リスクが2倍になったという結果は、安全な自転車インフラの整備の必要性を裏付けるものだと述べています。
今回の研究は、ヨーロッパのスコットランドで行われたものですが、日本における自転車による交通事故のリスクはどの程度のものなのでしょうか?
まず、警察庁の統計資料によると、2023年の自転車関連事故の件数は7万2339件で、前年に比べて増加傾向です。
また、全ての交通事故に占める自転車関連事故の比率も、2017年以降増加しています(23.5%)。
その一方で、死者数や重傷者数について、他の交通手段と合わせて見ると、歩行や自動車に比べて自転車の方が少ないことから、歩行や自動車の方が安全とは必ずしも言えないようです。
さらに、自転車総合研究所所長(当時)の古倉氏は、各移動手段の典型的な移動距離を考慮し交通事故の件数を検討した場合、自動車や徒歩に比べて自転車の危険性が高いとは推定できないことを示唆した上で、「主観的に危なそう」だから自転車を避けるのではなく、客観的なデータを考慮に入れた上で、健康効果が得られる自転車を活用する必要性を述べています。
以上の日本の事情を踏まえると、自転車通勤は健康を高めるための通勤・通学手段として、他の手段と比べても、十分推奨できるアプローチと言えます。
その上で、安全面により気を配るためには、昨年4月に施行された改正道路交通法によって努力義務とされたヘルメットの着用を徹底するなどの配慮が必要でしょう。
また、自転車事故のリスク対策として、自転車保険に加入しておくことも重要です。最近は自転車保険への加入を努力義務にしている自治体も増えています。
これは自転車で加害者側になることを想定していない人が多いため、予想外の高額な慰謝料を請求されて支払いに困窮する人が増えているためです。通勤などで自転車を利用する頻度が高い人は、こうした点も気にしておいた方が良いでしょう。
最後に、そもそも職場や学校が遠すぎて、徒歩や自転車での通勤、通学が非現実的だと感じる方に向けて、健康度を高めるためのちょっとした工夫もお伝えします。
2024年4月26日に欧州心臓学会の学術会議で発表されたメタ分析によると、約50万人のデータをもとにした結果、階段を上ることで死亡リスクや心血管疾患による死亡リスクが大幅に減少することが明らかになりました。
したがって、自家用車や公共交通機関をメインに通勤・通学する人たちは、職場や学校で積極的に階段を使う工夫をするだけでも、健康効果が期待できるでしょう。
もちろん、普段はアクティブに通勤・通学する人でも、天候やスケジュールによって公共交通機関や自家用車を利用することがあります。また、通勤・通学時に体を動かさなくても、日よっては運動する人もいるでしょう。
その日の活動量が少なくなりそうな場合には、いつも以上に積極的に階段を使うのも意外と効果的かもしれません。
参考文献
令和5年における交通事故の発生状況について/警察庁
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R05bunseki.pdf
自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~/警察庁
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html
【第17回】クルマや歩行に比べて自転車の危険性は高くない/公益財団法人 自転車駐車場整備センター
https://www.jitensha.jp/wp-jitensha/wp-content/uploads/2023/06/5df04529c69cfab0b42fcb648d5f6686.pdf
元論文
Health benefits of pedestrian and cyclist commuting: evidence from the Scottish Longitudinal Study
https://doi.org/10.1136/bmjph-2024-001295
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。