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競走馬はレースで勝つため、一般的な乗用馬とは異なる調教により、他馬より速く走るための闘争心や全力疾走することを教えられます。
ところが、乗用馬として重要なのは、乗っている人間が求めるペースとバランスを保ちながら運動することです。
再就職先によっては、競走馬時代のように経験豊富な乗り手ばかりではなく、経験の浅い人間も安全に背中に乗せなければなりません。
つまり、乗用馬になるためには競走馬時代に学んだことをリセットしなければならないのです。
このリセットの過程はリトレーニングと呼ばれ、馬にとっても人にとっても難しく、時間がかかります。
馬の性格と気質によって学習能力や人間に危険が及ぶような行動の傾向などが異なるため、リトレーニングの効率改善と事故頻度の低減には馬の性格と気質を考慮することが不可欠と考えられています。
冒頭で記載した愛すべき「名馬」であり「迷馬」たちのように、ぶっ飛んだ性格では困ってしまいますよね。
馬の性格と遺伝子の関連性について、日本大学と競走馬理化学研究所の研究チームが興味深い研究を行っていました。
研究チームは、既に解明されている人間の性格関連遺伝子を手がかりに、サラブレッド101頭の全ゲノム多型データベースとバイオインフォマティクス手法を用いて、馬の性格形成に関与する候補遺伝子を特定しました。
まず、遺伝子データベースから抽出した、ビッグファイブと呼ばれる性格特性(協調性、誠実性、外向性、神経症傾向、開放性)に関連する人間の遺伝子について、馬のオーソログ遺伝子を探しました。
その後、サラブレッドの全ゲノム多型データベースを使い、DNA配列に生じる変化であるDNA多型の情報を基に、候補遺伝子の調査を進めました。
オーソログ遺伝子とは、異なる種に存在する共通の祖先由来の遺伝子のことを指し、基本的に類似した機能を持っています。
つまり、人間の性格関連遺伝子の馬バージョンを探し、目星をつけてから詳しく調べていく作戦です。
結果、比較に使用した28個の人間の性格関連遺伝子すべてに対し馬のオーソログ遺伝子がみつかり、そのうち18個を馬の性格の多様性に影響する可能性がある候補遺伝子と特定しました。
18個のうち3個は他の研究でも性格に関連する候補遺伝子として報告されていますが、他の15個は新発見でした。
今回新たに発見された15個の候補遺伝子と性格の関連性までは明らかにされていませんが、今後、行動データを用いた研究などによりこのバイオインフォマティクス手法が確立されれば、遺伝子を使った馬の性格予測や関連するタンパク質の機能調査に役立つことが期待されます。
研究が進み、遺伝子と性格の関連性がさらに解明されれば、競走馬の再就職が捗るかもしれません。
参考文献
Horses share personality-related genes with humans, findings show
https://www.horsetalk.co.nz/2023/02/21/horses-personality-genes-humans/
Retraining an ex-racehorse from the anatomical and biomechanical viewpoint
https://www.horsesinsideout.com/post/retraining-an-ex-racehorse?srsltid=AfmBOooHwnvpMsdsujlhqeESsfL1Z66ibpCoCx7z_XG4p0iBQK6xpKF8
元論文
Identification of Personality-Related Candidate Genes in Thoroughbred Racehorses Using a Bioinformatics-Based Approach Involving Functionally Annotated Human Genes
https://doi.org/10.3390/ani13040769
ライター
門屋 希実: 大学では遺伝学、鯨類学を専攻。得意なジャンルは生物学ですが、脳科学、心理学などにも興味を持っています。科学のおもしろさをわかりやすくお伝えし、もっと日常に科学を落とし込むことを目指しています。趣味は釣り。クロカジキの横に寝転んで写真を撮ることが夢。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。