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確かに、突発的な痛みや刺激でネコが声を上げて跳び上がることは、よくあるものです。
また体のどこかが悪くて、歩き方がおかしくなったり、元気が無くなったりすることもあります。
それでも、ネコが実際に感じている痛みがどれほどのレベルなのか、飼い主たちは知りません。
ネコは「痛い」と言えないのです。
しかし、成猫の4分の1は変形性関節症(肘・膝などの関節軟骨やその周辺組織が変性し、痛くなる病気)を患っており、その発生率は加齢とともに増加します。
飼い猫たちの多くが、このような慢性的な痛みを抱えていながら、人間のように言葉で伝えられず、適切な処置を受けられないままでいます。
またカステル氏らによると、「仮に変形性関節症の治療を行うとしても、治療の選択肢は限られており、その大部分では重大な副作用が伴う」ようです。
そこでカステル氏らは、アロマセラピーなど、ネコの痛みを和らげる代替手段を模索してきました。
ただし、これを確立する上で必要不可欠なのが、ネコが感じる痛みの評価です。
実際にどれほど痛みが和らいでいるか知ることができなければ、適切な緩和処置を生み出すことはできないのです。
では、どのようにしてネコが感じる痛みのレベルを知ることができるのでしょうか。
カステル氏らは、この痛みの評価に役立つのが、脳波検査だと考えています。
これは頭皮に電極を当てて脳の電気活動を記録する検査のことであり、ネコの頭を傷つけたり、身体に影響を与えたりしません。
ただし、ネコたちは脳波検査を受ける人間のようにおとなしくしていられません。
猫たちは頻繁に頭を振ったり動いたりするため、電極がズレたり落ちたりするのです。
そこでカステル氏らは今回、可愛らしいネコ用脳波測定装置を開発することにしました。
研究チームが着目したのは、ネコ用のニット帽です。
これはネコ用のアイテムとして、ネコ愛好家たちの間で人気なものです。
YouTubeなどでは自分で編む方法も公開されており、飼い猫に手作りのニット帽をプレゼントする人たちもいます。
カステル氏らは、研究用にこのネコ用ニット帽を作成し、ここに合計10個の表面電極(非侵襲)を装着しました。
これにより、ネコが頭を動かしても電極がズレない、「可愛すぎるネコ用脳波測定装置」が完成しました。
そして研究チームは、この装置を11匹の成猫(いずれも変形性関節症を患っている)に被らせ、脳波を測定することにしました。
実験では、ネコたちに機械的刺激(直径2.5mmの先端が丸い金属ピンを使って右足を刺激)、嗅覚刺激(猫にとって不快なグレープフルールの匂い)、視覚刺激(様々な波長の光)を与え、その際の脳波が測定されました。
その結果、この可愛らしい装置によって、ネコの刺激に対応する脳活動の変化を記録することができました。
そして、ネコの痛みのレベルや、匂い、光に関連する重要な脳活動を特定することに成功しました。
これまでネコの脳波は、麻酔などでネコを鎮静させた状態で計測されてきたため、覚醒状態にあるネコの脳波がリアルタイムで得られたことは、大きな進展だと言えます。
しかも今回の実験では、ほとんどのネコが落ち着いた状態にあり、最小限の拘束しか必要ありませんでした。
実験にかかった時間も1匹につき約45分であり、ネコに強い負担をかけることもありませんでした。
今回の技術を活用するなら、いずれ、ネコが感じている痛みの程度の変化をリアルタイムで把握できるようになるかもしれません。
それは、変形性関節症を患うネコの痛みを緩和させる方法を見つけることにもつながるはずです。
仰々しいヘルメットではなく、可愛らしいネコ用のニット帽によって「ネコの痛みが分かる」ことも、飼い主たちにとっては嬉しいことです。
元論文
Non-invasive electroencephalography in awake cats: Feasibility and application to sensory processing in chronic pain
https://doi.org/10.1016/j.jneumeth.2024.110254
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部