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クマムシ(学名:Tardigrade)は、体長50μm~1.7mmほどの微小な生物であり、あらゆる環境に生息することで知られています。
このクマムシが有名なのは、これまで様々な伝説を残してきたからです。
クマムシは生育環境から水が無くなると「乾眠」と呼ばれるすべての代謝が停止した状態になります。
この状態であれば、絶対零度に近い温度(-272℃)、宇宙空間、マリアナ海溝の底の1000気圧にも耐えることができます。
また2024年のノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)の研究では、クマムシが人の致死量の約1000倍の放射線にも耐えられると分かりました。
まさにクマムシは「最強生物」なのです。
そして最近、この最強生物クマムシに、新しく可愛らしい伝説が加わりました。
なんと、線虫に乗るクマムシの赤ちゃんが発見されたのです。
動画を撮影したのは、アメリカに住むエンジニアのクインテン・ゲルドホフ氏であり、彼も「初めて見ました」と語っています。
動画では、荒ぶる線虫の背中につかまっている小さなクマムシが映っており、まるで暴れ馬にまたがる騎手のようです。
もしくは、ゲルドホフ氏がコメントしているように、「ゲームのボス戦」のイメージに近いかもしれません。
小さなクマムシは、巨大生物に必死にしがみつく主人公のようにも見えますね。
では、このクマムシと線虫の小さな戦いは、どのように発見されたのでしょうか。
ゲルドホフ氏は、アメリカのマサチューセッツ州ウィンスロップの自宅の近くで、この可愛らしいクマムシを見つけました。
彼は自宅近くの歩道から苔を集め、その中から微生物たちを回収。湿らせたスライドガラスの上に載せました。
この中には線虫とクマムシの卵が含まれており、数日後にクマムシが5匹孵化しました。
そこでゲルドホフ氏が顕微鏡を使ってクマムシたちを確認したところ、クマムシの赤ちゃんのうち1匹が、線虫の方向に流れていき、線虫の背中につかまったのです。
彼が使用していた顕微鏡には、ちょうど撮影のためにiPhone 14 Proが接続されており、この珍しい出来事を見逃すことなく録画できました。
この映像に関して、英国南極研究所(BAS)に所属するクマムシの研究者サンドラ・マッキネス氏は、「このような出来事は時に生じるうるものだが、そのタイミングで、記録するためのカメラが手元にあるケースは滅多にない」と述べています。
クマムシの騎乗シーンを撮影できたゲルドホフ氏は、絶妙なタイミングを逃さなかったのです。
また他の科学者によると、クマムシはガラスやプラスチックのペトリ皿の上を歩くことはできないため、何もできずに暴れ回るよりも、たまたま出会った線虫をつかむことを選んだと考えられるようです。
ちなみに、ゲルドホフ氏は「線虫がクマムシを食べることもある」とコメントしています。
一方でクマムシの種類によっては、クマムシが小さな線虫を丸呑みすることもあります。
そのため「線虫にしがみつくクマムシ」という微笑ましい映像の背後には、「食べるか食べられるか」といった2匹の微妙な関係性が隠れているのかもしれません。
そしてこのゲルドホフ氏の動画は、顕微鏡写真コンテスト「2024 Small World in Motion Competition」でも高い評価を受け、多くの作品の中から5位に輝きました。
最強生物「クマムシ」の名は、その可愛らしい騎乗姿と共に、新たに歴史に刻まれることになったのです。
参考文献
Wild Video Captures Baby Tardigrade Riding Its Predator
https://www.sciencealert.com/wild-video-captures-baby-tardigrade-riding-its-predator
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部