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共通する点は、その音が常に短く(数秒以下)、非常に大きいということです。
また幻聴なので、周囲には明らかな外部音源が存在しません。
そして、頭内爆発音症候群を経験した人の中には、音と共に「閃光が見える」などといった一時的な視覚障害(幻視)を報告する人もいます。
加えて、「強い熱を感じた」「上半身に電気が流れるような感覚があった」という報告もあるようです。
利用可能なデータが不足しているため、頭内爆発音症候群の患者の割合の正確な数字を知ることはできませんが、それでもいくつかの研究は、「健康な成人の10%以上が、生涯で1度は頭内爆発音症候群を経験している」と報告しています。
またヨーク大学のデニス氏らの2020年の研究では、オンラインアンケートに答えた参加者の3分の1が、生涯で少なくとも1回は頭内爆発音症候群を経験していると分かりました。
「頭内爆発音症候群」という名称自体がほとんど知られていないため、経験した人はそのことを意識していなかったり忘れていたりするかもしれませんが、この割合からすると、実は私たちも過去に爆発音を聞いている可能性があります。
そして、この症状は遅くとも1876年には専門家たちに認知されており、1988年からは現在の名称が使われています。
ちなみに、頭内爆発音症候群のような症状を報告した最も古い文章は、1600年代にフランスの哲学者「ルネ・デカルト」の伝記の中に見られるようで、彼もまた、寝る寸前に頭の中で爆発音を聞いた可能性があります。
では、頭内爆発音症候群の原因はいったい何なのでしょうか。
頭内爆発音症候群の原因は、今のところ正確には分かっておらず、これまでに多くの理論が提唱されてきました。
その中でも最も一般的だとされている考えは、「網様体(もうようたい)の混乱」です。
網様体は、脳幹の背側部分に散在しており、脳の「オン/オフ」スイッチとして機能しています。
私たちが眠りに落ちる時、つまり、覚醒から睡眠へ移行するタイミングでは、網様体の活動が減少し、視覚・聴覚・運動感覚を制御する脳領域が停止し始めます。
そして頭内爆発音症候群の症状は、このスイッチの切り替えが正常に行われない時に生じると考えられています。
例えば、睡眠への移行の調整がうまくいかず、音に関する神経信号が正しく遮断されなかったり、逆に何らかの誤った信号が送られたりすると、頭の中で異常な音を感じてしまうのです。
またデニス氏は、頭内爆発音症候群を引き起こす他の要因として、生活上のストレスを挙げています。
生活上のストレスが私たちの正常な睡眠パターンを乱し、この乱れが頭内爆発音症候群へと繋がる可能性があるというのです。
いずれにせよ、これらは推測の域を出ていないため、今後、さらなる研究が必要とされています。
そして私たちとしては、原因以外にも頭内爆発音症候群について気になる点がまだ残っています。
それは、「頭内爆発音症候群を経験する人は危険な状態にあるのか」という点です。
専門家たちによると、頭内爆発音症候群は、その恐ろしい名前が付いているにも関わらず、無害だと考えられています。
通常、頭内爆発音症候群の症状は短く、痛みも伴いません。
仮に痛みがあったとしてもそれは軽度で一時的なものです。
だからこそ、痛みが長く続いたり、強かったりする場合は、頭内爆発音症候群ではなく他の病気を疑うべきです。
もちろん、「頭内爆発音症候群は無害」だからといって、私たちに恐怖を与えないわけではありません。
前述したデニス氏らの2020年の研究では、頭内爆発音症候群を経験した3000人以上のうち、45%が「中程度~重度の恐怖を感じている」と報告しています。
また音だけでなく強い痛みが伴う稀なケースでは、人々の恐怖がより高まることも分かっています。
1度ショッキングな体験をした人は、「同じ経験はしたくない」と恐怖と不安に襲われるかもしれません。
ただ残念なことに、頭内爆発音症候群の治療法や対策は確立されていません。
それでもデニス氏らの調査では、「仰向けに寝ないこと」「規則正しい睡眠パターンを維持すること」などが効果的だと報告されており、恐怖を感じている人は試してみると良いかもしれません。
また「頭内爆発音症候群が無害である」ことを知るだけでも大きな効果があり、「頭内爆発音症候群に関して正しい知識を伝えて安心させることで、患者の発作が起こらなくなった」との報告もあります。
そのため、もし今後、何かの爆発音で目覚めることがあったとしても安心してください。
周囲を確認して何も生じてないようであれば、それはあなたの頭の中の出来事であり、大きな問題ではないのです。
参考文献
Waking up with a bang? It could be ‘exploding head syndrome’
https://theconversation.com/waking-up-with-a-bang-it-could-be-exploding-head-syndrome-236351
元論文
Exploding head syndrome: clinical features, theories about etiology, and prevention strategies in a large international sample
https://doi.org/10.1016/j.sleep.2020.05.043
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部