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それに加えて、ミナミハンドウイルカは本来、複数頭の群れで行動することが常であり、1頭での単独行動は非常に珍しいものです。
その点も踏まえると、襲撃に関わっているイルカは群れから外れてしまった同じオス個体と考えるのが妥当だといいます。
もちろん、すべての襲撃事件の犯人がこのオスイルカであるとは断定できませんが、その多くに関与していることは確かなようです。
では、なぜこのオスイルカはわざわざ人を襲うようなことを始めたのでしょうか?
森阪氏によると、まずイルカが人を襲うのは「何らかの交流を求めたコミュニケーションの一環である」ように思われます。
というのもイルカの社会では通常、オス同士が互いに甘噛みをしたり、小突き合うことで積極的にコミュニケーションを取ることが知られているからです。
しかし、このオスイルカは群れから外れてしまったせいで、仲間とコミュニケーションを取ることができません。
そこで代わりに、沖合で遊んでいる人に向かって小突いたり、甘噛みしている可能性が高いと考えられます。
そのため、オスイルカは人に何らかの恨みがあって攻撃しているわけではなさそうです。
もし本当に人を傷つけたいと考えているなら、もっと勢いよくタックルをしたり、強く噛み付いているはずでしょう。
そんな荒っぽい攻撃はしていないところを見ると、イルカは友好的な交流を求めている可能性があります。
ただ不幸なことに、このオスイルカはじゃれているつもりでも、人間とイルカでは体格がまったく異なるため怪我人が続出してしまっています。
また、イルカの襲撃は「性的な欲求不満から来る交尾願望のあらわれ」とも考えられています。
ミナミハンドウイルカの社会では、オス同士の遊びとして性行為の練習をすることがあります。
彼らは「1頭のメス役と、複数頭のオス役に分かれ、オス役がメス役にマウントしたり、ペニスをぶつけたりする」遊びをするのです。
こうした遊びを若い頃に良くしていたイルカのオスほど、大人になってからより多くのメスとの交尾に成功しているという報告もあります。
これを踏まえると、このオスイルカは交尾ごっこする仲間がおらず、欲求が溜まってしまったことで、その性欲発散を人に対してしようとしているのかもしれません。
実際に2022年と2023年にイルカが自分の性器を人に押し付けようとしている行動が観察されていました。
ただイルカの方に悪気がなかったとしても、海水浴客にとってイルカとの接触が危険であることに変わりありません。
オスのミナミハンドウイルカは体長約2.5メートル、体重約200キロ、軽く泳いでも時速20〜30キロは普通に出ています。
その体格で甘噛みや体当たりをされれば、人が怪我を負うのは当然です。
そこで福井県の地元当局は現在、海水浴客に向けてイルカとの触れ合いを自粛するよう看板やチラシを設置して呼びかけています。
また船でのパトロールを導入したり、一部ビーチでは遊泳時間を制限する取り組みも開始しました。
森阪氏は「最も大事なことはいち早くイルカに気づいて、すぐに海から離れることです」と話します。
これを徹底すれば、イルカは浜辺に遊びに来ても楽しい出来事が起こらないことに気づき、次第に人との接触から遠ざかると見られています。
参考文献
Sexually frustrated dolphin behind spate of attacks on humans off Japan
https://www.livescience.com/animals/dolphins/sexually-frustrated-dolphin-behind-spate-of-attacks-on-humans-off-japan
Lonely? Playful? Why are dolphin attacks rising in Japan?
https://www.nature.com/articles/d41586-024-02783-x
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部