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一方で、ヒューマン・エージェント・インタラクション(※)の分野では、対象物にヒトらしい形状が備わっていることで、感情を読み込みやすくなると主張されてきました。
(※ HAIは、ヒトとエージェント[ロボットやコンピューター、バーチャルキャラクターなど]の相互作用を研究する分野)
どちらも無生物から感情を感じる上では重要なファクター(要因)と考えられていますが、「動き」と「ヒトらしい形状」の影響はそれぞれ別個に研究されてきたのです。
そのため「動き」と「ヒトらしい形状」の2つのファクターを同時に考慮した研究はこれまでありませんでした。
そこで東京大学の研究チームは今回、「形状のヒトらしさ」のレベルが異なる3つの対象物について、「動き」がある場合とない場合で被験者がどのように感じるかを検証することにしました。
3つの対象物は、こちらの図で示されたように「人型・しめじ・マッチ」の3つを選んでいます。
特に真ん中のしめじについては、X(旧Twitter)で話題になった「添い寝しめじ」を参考にして作成したとのことです。
では、実際の実験模様を見てみましょう。
実験では先の「人型・しめじ・マッチ」の静止画と動画を使いました。
こちらの図の下半分で、動画の最初・中央・最後のフレームが示されています。
近づく(抱きしめる)動画と離れる動画は逆再生の関係になっています。
そして30名の大学生と大学院生(男性22名・女性8名、平均年齢20歳)を対象に、「形状的にヒトらしいか」と「感情を持っているか」について質問紙で調査を行いました。
その結果、「形状的にヒトらしいか」については「人型→しめじ→マッチ」の順で形状がヒトに似ていると評価されました。
しかし「感情を持っているか」については、静止画では人型がしめじより高く評価されたのに対して、近づく動画ではしめじの方が人型よりも高く評価されたのです。
つまり、形状があまりヒトに似ていない物体は、近づく(抱きしめる)のような社会的な動きが与えられた場合に、見る者がより感情を強く読み込みやすくなったのです。
一方、最初からヒトらしく見えている人型は動きが加わっても、感情の読み込みの度合いは、動きがない静止画の場合と比較して大きく変わりませんでした。
さらにチームは追加実験として、顔パーツの有無が感情の読み込みに与える影響を調べてみました。
これは以下のように、しめじにヒトの顔のような目と口を与えたものです。
その結果、近づく・離れるなどの動きが加えられた場合には、むしろ顔パーツがない方が感情の読み込みが強くなることが示されています。
今回の研究は、これまで別々に調べられてきた「形状のヒトらしさ」と「動き」の知見を組み合わせた貴重な成果です。
そして感情の読み込みにおける「社会的な動き」の効果は、それぞれの対象物の「形状のヒトらしさ」によって変わることが示されました。
しめじのように元からあまりヒトには見えない物体ほど、動きを獲得することで感情的に見えやすいようです。
チームはこの知見について、シンプルで装飾の少ないキャラクターデザインの開発など、感情豊かに見えるロボットやバーチャルキャラクターの作成に貢献すると考えています。
一見すると、生物にはまったく見えないものの、ユニークな動きを与えることでシンプルなのにイキイキとした新キャラが生み出せるかもしれません。
参考文献
【研究成果】2体のしめじが近づくと感情豊かにみえる ――外見があまりヒトらしくない対象でも動きが加わると、 見る者は強く”感情”を読み込む――
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20240813190000.html
元論文
Influence of appearance and motion interaction on emotional state attribution to objects: The example of hugging shimeji mushrooms
https://doi.org/10.1016/j.chb.2024.108383
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部