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2つ目は電気ショックが来るタイミングが明確にわかっている「不確実性が小」のシナリオです。
ここで被験者は椅子に座り、「○秒後に電気ショックが発生する可能性がある」と言われます。
何秒後に電気ショックが来るかが予測できるので、こちらは不確実性が小さくなります。
また、どちらのシナリオでも全体的な電気ショックを受ける確率は同じに設定しました。
被験者の感じた不安感の大きさは、実験中の行動モニタリング(椅子から離れた頻度や獲得できた報酬額など)や自己申告アンケートで測定しています。
実験の結果、被験者の不安レベルは事前の予想どおり、シナリオ1の「不確実性が大」のときに最大化されることが確かめられました。
電気ショックがいつ来るかわからないシナリオは、電気ショックまでの明確なカウントダウンがあるシナリオに比べて、被験者の不安感を大幅に増大させることが判明したのです。
これは被験者の行動モニタリングや自己申告のどちらでも明らかでした。
不確実性が高いシナリオのときほど、被験者は椅子を離れる頻度が多く、最終的に得られた報酬額も平均17.8%少なくなっていたという。
この結果は、電気ショックという恐怖の出来事そのものよりも、電気ショックが来るか来ないかわからない「宙吊りの時間」こそが、人々の恐怖や不安感を最も高めることを示唆するものでした。
チームはこの理由について「不確実性に恐怖を感じることに進化上のメリットがあるのではないか」と考えます。
先の実験結果を踏まえると、私たちの脳は知覚される脅威が時間の経過とともに増大するにつれて、不安感もより増大するように配線されていると考えられます。
そしてチームは「この脳メカニズムこそが進化上、祖先の生存率を高めるのに役立った可能性がある」と指摘します。
例えば、不確実性で不安感が増大する心境を安全ゲージが減っていくイメージとして捉えてみましょう。
電気ショックが10秒以内のどこかで来る場合、最初の1〜2秒が過ぎた段階では安全ゲージも多く残っているので、「まだ大丈夫だ」と思えるはずです。
しかし7秒、8秒と過ぎていくと安全ゲージは残り2〜3秒しかなくなり、電気ショックを受ける確率も高くなるため、「そろそろヤバいぞ」と知覚される脅威がどんどん膨れ上がって不安感が大きくなります。
これは狩猟採集をしていた時代の祖先にも当てはまったはずです。
例えば、サバンナで食料収集をする際には、人間よりも大型で凶暴なライオンやヒョウといった捕食者に出くわす危険性があります。
ただ彼らがいつどのタイミングで出てくるかはわかりません。
そのような不確実性の中で、いつまでものらりくらりと食料収集を続けていると、その分だけ天敵と出くわすリスクも高くなります。
そこで祖先の脳は時間が経過するごとに心の安全ゲージを減らして、「そろそろヤバいんじゃない?」「もう家に帰った方がいいんじゃない?」と不安感を煽ります。
しかしそうすることで天敵に遭遇するリスクを減らし、生存率を高められたのではないかと考えられるのです。
このようなメリットがあるゆえに、私たちの脳は恐怖の出来事がいつ来るかわからない「宙吊りの時間」が長く続くほど不安感を抱くようになっている可能性があります。
つまりこの「宙吊りの時間」をギリギリまで引き伸ばして上手く利用しているホラー作品が、めちゃ怖いと高い評価を受けやすい名作になるのかもしれません。
参考文献
Scientists prove Alfred Hitchcock right, shedding light on a fundamental aspect of anxiety
https://www.psypost.org/scientists-prove-alfred-hitchcock-right-shedding-light-on-a-fundamental-aspect-of-anxiety/
元論文
Temporal Dynamics of Uncertainty Cause Anxiety and Avoidance
https://cpsyjournal.org/articles/10.5334/cpsy.105
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部