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研究チームが2009年に、名古屋港水族館の水槽内で発見した甲殻類もそうした故郷知れずの一種でした。
この小さな甲殻類は900種以上が知られている「タナイス目」のグループに属することがわかっており、体長は3〜7ミリほどしかありません。
同チームの角井敬知(かくい・けいいち)氏は、水族館で採集した個体を研究室で繁殖させ、何世代にもわたって繁殖させるコロニーを確立しました。
それ以来、この未知種の調査を進めており、タナイス目の中のアプセウデス(Apseudes)属の一種であることを明らかにしましたが、すでに見つかっている既知種なのか、まだ学名のついていない新種なのかは特定できずにいたのです。
そこで研究チームは今回、この謎の甲殻類の正体に決着をつけるべく、新たに調査を行いました。
本調査では、研究室で継代飼育されていた個体群を対象に、顕微鏡を用いた形態観察とDNA配列の解析を実施。
その結果、この謎の甲殻類は既知の種のいずれにも該当しない特徴を持つことから学術的に未記載の新種であると断定されたのです。
そこでチームは本種の新たな学名として「アプセウデス・ランマ(Apseudes ranma、和名:ランマアプセウデス)」と命名しました。
この名前は高橋留美子氏の漫画『らんま1/2』のキャラクターである「早乙女乱馬」に由来するといいます。
その理由はアプセウデス・ランマが「雌雄同体(しゆうどうたい)」の特徴を持っていたことにあるという。
雌雄同体とは、一個体のうちにオスの生殖器官とメスの生殖器官の両方が存在する生物の特徴です。
『らんま1/2』を知っている方ならお分かりのとおり、早乙女乱馬は男性でありながら女性にもなるという稀有な能力を持っています。
乱馬は父親である玄馬と格闘の修行中に、中国の奥地にある呪われた泉に落ちたことで、水をかぶると女性になり、お湯をかぶると男性に戻るという体質になったのでした。
このように男女(雌雄)を兼ね備えている共通点から、原作者の高橋氏と作品の権利を持つ小学館に許可を得て、「ランマ」の学名を頂いたといいます。
また観察をする中で、ランマはハサミ型の脚の内側に、すり合わせて音を出す器官の「摩擦音器」と見られる構造を持っていることも明らかになりました。
そこにはデコボコしたコブ状の突起などが見られ、左右の脚を擦り合わせることで何らかの音を出している可能性が高いようです。
こうした摩擦音器は音を通じた仲間同士のコミュニケーションに使われていると指摘されていますが、まだ摩擦音器を実際に使っていると断定されたタナイス目は存在しません。
そこでチームは今後、飼育繁殖の容易なランマを対象にして、本当にデコボコ突起のあるハサミを「摩擦音器」として使っているのかどうか、確かめる予定です。
新種のランマは現時点で、名古屋港水族館と研究室の水槽内という限られた環境でしか見つかっていない故郷知れずの種です。
チームは本種のDNA配列の解析を通じて、故郷を明らかにしたいとも考えています。
ちなみに『らんま1/2』は今年10月から完全新作アニメが放送されることが決まっています。
今回の新種発見がそのいい景気づけになったかもしれません。
参考文献
水族館の水槽から新種のタナイス目甲殻類を発見~「らんま1/2」の早乙女乱馬(らんま)に因んで「ランマ」アプセウデスと命名~
https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/07/12-4.html
元論文
Apseudes ranma sp. nov. (Tanaidacea: Apseudidae) found in a public aquarium, with notes on phylogeny and a presumptive stridulatory organ
https://doi.org/10.5343/bms.2024.0030
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部