私たちの身体は、毎日摂取する食べ物や飲み物から成り立っています。

食べ物や飲み物を購入するにはお金が必要なことを踏まえると、個人の収入や商品の価格が間接的に私たちの健康に影響を与えているとも言えるでしょう。

たとえば、スナック菓子、菓子パン、惣菜パン、カップ麺などの超加工食品は、安価で高カロリーですが、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養価が低いです。

反対に、野菜や果物といった健康的な食事はカロリー当たりで見ると高価で、経済的に貧しければ購入するハードルが高くなります。

最近、米・マウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)らに所属する研究グループから、スーパーマーケットの野菜や果物、ノンカロリー飲料を半額にするクーポンを発行することで、人々の購買習慣や体重が変動するのか調べた研究が発表されました。

その結果とは、半額のクーポンを受け取った人たちは、野菜や果物をよく食べるようになり、体重も減ったというものです。

この結果は、スーパーマーケットの割引券の使い方によって、人々が健康になれる可能性を示しています。

本研究成果は、肥満の人たちに良い治療を促進するための研究結果が掲載される学術雑誌『Obesity』に2024年6月27日付けで公開されています。

目次

  • 購買意欲の高まる「半額」
  • 割引クーポンで健康的になる理由とは?

購買意欲の高まる「半額」

割引券(クーポン)の存在は、購買意欲を刺激し、当初は買うつもりがなかった商品もつい買ってしまうことがあります。

その結果、家に帰ってから、「余計なものを買ってしまった」と、後悔した経験を持つ人もいるのではないでしょうか?

しかし、割引の内容次第では、私たちを健康的な身体に導いてくれる可能性もあるようです。

アメリカ・ニューヨーク市のスーパーマーケット、D’Agostino(ダゴスティーノ)で行われた16週間にわたる実証実験では、外食やテイクアウトをあまりしない過体重の人たちを対象として行われました。

対象者はランダムに、割引券を受け取るグループ(実験群)と受け取らないグループ(対照群)に分けられました。

実証期間中、全員に対して、日々の食料品をそのスーパーマーケットで購入することを求めたとともに、実験群は8週間だけ、野菜、果物、ノンカロリー飲料(水、炭酸水、ダイエットソーダ)を50%の割引価格で購入できるクーポンを提供されました。なお、この期間、実験群は当該商品を制限なく、割引価格で購入することができました。

「50%OFF」「半額」の表示は財布の紐を緩みがちにさせる / Credit: イラストAC

早速得られた結果をみると、8週間の介入期間中、実験群は対照群に比べて野菜、果物、ノンカロリー飲料の購入量が大幅に増加しました。

こういった購入状況の変化に留まらず、介入期間後の体重が対照群に比べると、実験群で平均1.33kg落ちていました。

また、割引期間が終わっても、野菜や果物の購入量が多い状態が続いたと同時に、アルコール飲料の摂取量が逆に少なくなりました。

総じて、これらの結果は、過体重の人たちに対して、野菜や果物、ノンカロリー飲料の半額券を提供することで、購買習慣が変容し、体重減少につながったことを示しています。

肥満をはじめとする生活習慣病は、国の医療費を増大させる一因となっています。

そのため、国や地方公共団体が野菜や果物などの健康的な商品を積極的に手に取るような施策を設けることは、医療費を削減する効果が期待できるかもしれません。

割引クーポンで健康的になる理由とは?

ところで、なぜ今回の実証実験で割引券を貰ったグループの体重が減ったのでしょうか?

これは、割引券を使って購入した飲食物を積極的に食べ飲みしたことが影響したと考えられます。

研究グループは、健康食品に対する割引が25%だった先行研究では、購入量がわずかに増えたものの、体重が変化していなかったことを踏まえ、半額という大きな割引の方が、効果が期待できると考察しています。

実際、クーポンを貰った実験群の介入期間中の野菜、果物の購入量は著しく増え、割引券を使っていても、対照群よりもより多くのお金を使って、野菜と果物を購入していました。

また、割引期間が終わってからも、介入群の野菜や果物の購入量が多かった結果も興味深い現象です。

この原因については、野菜や果物を使って料理することが習慣化した可能性があります。

野菜を使った料理には作り置き出来る品も多く、お金と時間の節約にも有効 / Credit: 写真AC

すなわち、安価で手軽に食べられる加工食品の方が安ければ、そちらを優先的に購入してしまうものの、割引によって安くなった野菜や果物を購入し、その際に料理の仕方を覚えてしまった場合、その後も購入を続けることが考えられます。

さらに、家庭での節約術が向上し、野菜や果物を使った多様なレシピを試す機会が増えるとともに、体重減少などの目に見える効果が実感できると、消費者は普段の食生活においてこれらの食材を積極的に取り入れるようになります。

たとえば、サラダやスムージー、野菜炒めなど、簡単で健康的な料理を日常的に作るようになれば、健康状態の改善や、さらなる体重減少も期待できるでしょう。

普段あまり自炊をしない人も、野菜や果物が割引になっているときは、それをきっかけに自分の食生活を見直すチャンスだと思って、割引に釣られてみるのも良いかもしれません。

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参考文献

Discounts on healthy food lead to increase in consumption –study
https://www.jpost.com/health-and-wellness/nutrition/article-775548

元論文

Effects of discounting fruits, vegetables, and noncaloric beverages in New York City supermarkets on purchasing, intake, and weight
https://doi.org/10.1002/oby.24058

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「値上げのせい」スーパーで野菜の価格を下げると市民の健康状態は良くなると判明