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自分の見ている赤色は、他の人から見ても同じ赤色なんだろうか? 同じ言葉で表現しているから齟齬がないだけで、実は違うものを見ているのではないか?
そんな疑問を抱いたことはないでしょうか? これは誰もが一度は感じる疑問だと言いますが、実際人によって色の見え方や感じ方は異なっている可能性があります。
では、どのような要素が見え方の違いを生じさせるのでしょうか。
例えば、男女の違いがあります。
これまでの発見では、「同じ色相を知覚するのに、男性は女性よりもやや長い波長を必要とする」と分かっています。
この違いにより、男性は女性に比べて、ミカンのオレンジ色がより赤く見ている可能性があるようです。
そして見え方の違いを生じさせる要因は、他にも多く存在します。
その中には、未だ明らかになっていない要因もあるはずです。
そこで今回、大塚氏ら研究チームは、新たな要素として生活パターンの違いに着目しました。
彼らは「朝型」と「夜型」の違いが、世界の見え方にどのような違いを生むか研究したのです。
まず研究チームは、現実世界の明暗コントラストをそのまま再現した写真を用意しました。
この写真の撮影には、HDR(High Dynamic Range)という映像技術を利用しています。
従来の映像技術では影が黒くつぶれたり明るい部分が白飛びしたりしますが、HDR映像では、明るい部分と暗い部分のどちらも犠牲にならず、よりリアルな描写が可能になるのです。
次にチームは、この「自然でリアルな写真」を元に、コントラストや輝度を調整した写真をいくつか準備しました。
そして、それぞれの写真を朝型の人や夜型の人に見せ、それらがどの時刻に撮影されたと感じるのか調べました。
その結果、朝型の人はメリハリのある写真(コントラストを上げ、輝度を下げた写真)を朝だと感じました。
一方、夜型の人は、全体的に明るく白っぽい写真(コントラストを下げ、輝度を上げた写真)を朝だと感じると分かりました。
朝型の人と夜型の人では、同じ朝の風景でも、見え方が大きく異なっていたのです。
では、なぜこのような違いが生じるのでしょうか。
通常私たちは、夜でも自分の身の安全を図るために、暗いところも視認できるよう、視覚の感度とダイナミックレンジ(識別可能な信号の最小値と最大値の比率)を上げ、コントラストを下げて見ています。
夜には、夜に適応した視覚になるわけです。
しかし、その後の変化が、夜型の人と朝型の人では異なります。
夜型の人は、夜の視覚状態を残してコントラストを下げたまま午前を迎え、午後はコントラストを少し高めた状態で外界を見ていると分かりました。
夜型の人は、夜の見え方に近い状態を維持しているので、特に天気の良い朝は、いくらか白飛びしたような世界に見えていたのです。
一方で朝型の人は、朝に日光を浴びることで、メリハリのある見え方に切り替えていました。
そして彼らは、午後になると再び、夜に備えて徐々にコントラストを下げていくようです。
朝型の人は、夜と朝ではっきりと見え方を切り換えるので、明るい朝でも影の部分をよく見分けることができていたのです。
今回の研究により、朝型の人と夜型の人が「今朝は桜の花が青空に映えてとても清々しいですね」と会話したとしても、実のところ、見え方はかなり異なっていると分かりました。
研究チームは、この結果を応用して、朝型の人と夜型の人、それぞれに合わせた表示する次世代ディスプレイを開発できると考えています。
参考文献
【世界初】 朝の見え方が生活パターンの影響で大きく異なることを発見。 国際高専 大塚 作一教授の研究グループ
https://www.ict-kanazawa.ac.jp/2024/07/23/28292/
元論文
Next generation personalized display systems employing adaptive dynamic-range compression techniques to address diversity in individual circadian visual features
https://doi.org/10.1002/jsid.1277
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部