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画像のように従業員がスマイルくんに向かって挨拶すると、スマイルくんは、目元や口元などの450以上の「笑顔ポイント」を分析し、100段階で評価します。
また、声量・滑舌・調子(音程)に関しても視覚的にフィードバックしてくれます。
さらにスマイルくんは、笑顔・発声の評価に応じて経験値を得ることができ、その経験値に基づきレベルアップ。難易度やバリエーションが変化します。
これにより従業員はゲーム感覚で毎日スマイルくんを利用し、少しずつ笑顔や発声を改善していくことができるのです。
実際、先行した8店舗の実証実験では、笑顔と挨拶の実施率が3カ月で1.6倍に向上したようです。
これは非常に大きな成果だと言えます。
一方で、海外を中心に、一部の人々からはいくらか疑問の声が上がっています。
接客業では、当然ながら、「お客様にどのように接するか」といった点で従業員の教育が必要になります。
言葉や態度を誤れば、クレームなどのトラブルに発展してしまうため、接客業において企業が言葉遣いを始めとした教育に力をいれるのは当然でしょう。
そして、そこに笑顔や発声に関するトレーニングやマニュアルが作られるのも自然な流れだと考えられます。
イオンが採用した「スマイルくん」は、いわばそれらの自動化です。
トレーナーや紙のマニュアルではなく、AIを利用することで、1人1人の従業員が自分でスキルアップしていくことが可能なのです。
しかし、「AIを用いた笑顔の評価」という方法に疑問を抱く人も少なくありません。
一部の人々(特に海外の人々)は、まるでディストピアのように、AIが人間の細かな点を管理し、個人の自由や尊厳が脅かしているようなイメージを抱いているのでしょう。
これには、日本とその他の国々の接客に対する考え方の違いも影響しているかもしれません。
日本では、たとえアルバイトでも、接客に対して厳しくトレーニングされ、丁寧な言葉遣いや多くのサービスが求められます。
これは、「お客様は神様」とする考え方が、未だに根強く残っているからかもしれません。
海外では「客と店員は対等」だとする考え方を持っている人が多く、フランクなコミュニケーションと「ゆるい接客」がよく見られます。
アルバイトだと無愛想な態度で接客したり、店員同士でおしゃべりしていたりと、「報酬に見合った接客をする」という考え方が一般的なようです。
こうした日本と海外の接客の考え方の違いとして代表的だったのが、世界中に店舗を構えるマクドナルドが日本独自のサービスとして導入していた「スマイル0円」です。
笑顔が無料なのは日本だけだったようです。
ただ、マクドナルドはこの「スマイス0円」が時代の価値観に合わないとして、主にZ世代を含む若年層に対して、マクドナルドの“働き方の多様性”を伝えるために「スマイルあげない」キャンペーンというものを2023年に実施して話題になっていました。
マクドナルドはこのキャンペーンによって、クルー応募数が前年より115%アップしたと報告しています。
「客と店員は対等」という考え方は、国を跨がずとも近年は日本国内でも若い世代を中心に当たり前になってきているようです。
そのため、日本のスーパーマーケットでも、レジ打ちは座ってやっても良いのではないかという声もよく聞かれます。
だからこそ、そのような接客に慣れている人々は、スマイルくんが従業員に「笑顔」と「行き過ぎた接客サービス」を強要しているように感じてしまうのでしょう。
ある人は、「人はそれぞれ異なるし、愛情表現も違う。機械を使って人の態度を標準化するなんて、冷たくて愚かな気がする」とコメントしています。
また別の人は、「笑顔は美しく、心のこもったものであるべきで、商品のように扱われるべきではない」と述べています。
しかしイオンがこうした取り組みに力をいれる背景には、依然として接客態度に苦情を出すお客様が多いからかもしれません。
接客における実情をもっとも理解しているのは現場の人々でしょう。笑顔のトレーニングによってお客様との無用のトラブルを避けて、従業員を守れるならば、この取り組みが間違った判断とは言えないでしょう。
実際人間を相手にする接客のトレーニングは、非常に難しい分野であり、ちょっとした態度や言葉遣いの違いでお客様をクレーマーにしてしまうという問題には多くの企業が頭を悩ませています。
そのため接客の正解を見極めるために、接客のトレーニングにAIを活用するという取り組みは現在広く試されている技術の1つです。
接客態度をAIが監視するというイメージを持つと、ディストピアのようにも見えてしまいますが、もっともトラブルの少ない接客方法をAIが見つけ出し伝授するという方法は、お客様も従業員も、どちらのストレスも軽減させる大切な取り組みなのです。
とはいえ、やはり笑顔は自然に浮かんでくるものが一番であることは確かでしょう。
参考文献
Japan supermarket chain uses AI to gauge staff smiles, speech tones in quality service push
https://www.scmp.com/news/people-culture/article/3271333/japan-supermarket-chain-uses-ai-gauge-staff-smiles-speech-tones-quality-service-push
Japanese supermarkets begin tracking and optimizing workers’smiles
https://newatlas.com/technology/smile-rating-ai-japan-aeon-mr-smile/
世界初!エッジAIを従業員の笑顔・発声トレーニングに導入 従業員の笑顔と挨拶の実施率が1.6倍に
https://www.aeonretail.jp/pdf/240701R_1.pdf
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部