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しかし、こうした最大手の企業が競合他社よりも、商品やサービスの値段を割高に設定できるメカニズムはわかっていませんでした。
というのも伝統的な経済理論によれば、供給量を増やす(=店舗数を増やす)ことは価格の低下につながるというのが常識だったからです。
例えば、店舗数が増えると、当然ながら市場に出回る商品やサービスの総量も増加します。
それにより、商品やサービスの希少性が薄まり、供給量の方が消費者の需要量を超える現象が起こります。
そうなると、お客さんに余った商品やサービスを買ってもらうために値段を下げる動きが見られるのです。
ところが先に挙げた一連の例では、「店舗数が多いのに価格が高くなる」という真逆のことが起こっていました。
供給量が多いのに値段を高くすると、お客さんに買ってもらえない可能性があります。
では、どうして最大手の企業はそうしたリスクのありそうな選択ができるのでしょうか?
研究チームは今回、店舗数の規模が異なる多数の企業が価格競争を行う数理モデルを独自に開発。
それをもとに、同一商品やサービスであっても店舗数の多い企業ほど高い価格を設定できるメカニズムを調べてみました。
その結果、次のようなプロセスが明らかになっています。
まずもって、店舗数の多い最大手の企業は、私たち消費者にとって最も「目立つ」存在です。
街に出ると同じ店舗を何度も見かけるように、店舗数の多い企業は消費者にとって「遭遇しやすい」という性質を持ちます。
もし私たちが「チェーン店は高いから」とより安いサービスを探し求めて一つの店舗を通り過ぎたとしても、次に遭遇する店舗は結局、同じ企業の別のチェーン店である可能性が高くなります。
それに反して、より安いサービスを提供している競合他社の小規模な店は店舗数が少ないせいで、なかなか遭遇できません。
そうなると私たちは「どうせここをスルーしてもまた同じチェーン店が現れるだけだから、安い店を探すのは無駄足になりそうだ」と考えます。
その結果、消費者は多少高値であっても目の前の取引を受け入れやすくなるのです。
こうした消費者心理のおかげで、店舗数の多い企業は少ない企業よりも価格を高く設定できることが示されました。
この心理プロセスについて、研究者は次のような具体的シーンを挙げています。
「仮に最大手のタクシーを1台やり過ごして、少し安い他社のタクシーをあてにして待っていたとしても、結局次々やってくるのは最大手のタクシーばかりというのはよくあることです。
この事実が消費者を『待っても無駄』という状態にさせることで、最大手企業は安心して価格を引き上げることができるのです」
もちろん、ここで示されたメカニズムは価格設定を高くできる理由の一端であり、他の要因も関係しているでしょう。
例えば、有名チェーン店ならではのブランド力や品質の高さ、サービスの安定した一貫性などなど。
しかし、この店舗との遭遇率の高さは、お客さんを取り込むための重要なファクターのようです。
参考文献
価格設定のしくみを解明 ~店舗の多い企業ほど「値上げしても客が逃げない」理由~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/07/post-695.html
元論文
PROMINENCE AND MARKET POWER: ASYMMETRIC OLIGOPOLY WITH SEQUENTIAL CONSUMER SEARCH
https://doi.org/10.1111/iere.12704
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部