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分析に使用されたのは、イギリスの長期大規模バイオバンク研究「UKバイオバンク」のデータであり、合計2万6820人のデータが用いられました。
その中には、性別、年齢、疾患、飲酒・喫煙などの情報も含まれています。
そして、すべての研究参加者の認知能力を4つの認知テストにより評価し、睡眠時間や朝型か夜型かによってどのような違いが生じるか分析しました。
その結果、まず毎晩7~9時間の睡眠を取ると、脳の機能が最適化され、記憶力、推論力、情報処理速度が向上すると判明しました。
逆に、7時間未満、または9時間を超える睡眠は認知能力に悪影響を及ぼすようです。
これはよく知られた情報であり、今回の研究でもやはり、「十分な睡眠で脳の働きが良くなる」と示されたことになります。
そしてさらに今回の分析では、すべての条件が同じであれば、朝型か夜型かで認知能力に差が出ることも分かりました。
今回の分析では、夜型の人の方が朝型の人よりも、一貫して高い認知スコアを出しました。
例えば、夜型の人のスコアは朝型の人よりも7.5~13.5%高くなりました。
ちなみに、朝型と夜型の中間のタイプ(強い傾向や好みが無い人)も認知スコアは高く、朝型よりも6.3~10.6%高いスコアを出しました。
これらの差は、年齢や性別、喫煙・アルコールの習慣、慢性疾患などの要因を調整した後でも有意でした。
また研究チームの予想通り、若くて健康な人の方が認知テストでは高い成績を収めることも分かりました。
ここで調べられている認知能力は、記憶力や注意力、また創造的な思考能力を指しています。
これらの能力は、なぜ夜型の方が高くなるのでしょうか?
今回の研究では、なぜ夜型の人の方が全体的に認知能力が高かったのか、そのメカニズムまでは解明していません。
しかしこれまでに夜型人間の特徴として報告されている事実と併せて考察した場合、次のような要因が考えられるとされています。
夜型の人は、静かな夜間に活動のピークが来るため、作業に集中しやすい傾向があり、また夜間はリラックスしやすい時間帯であるため全体的な活動時間が夜に移行することでストレスを溜めにくくなるのです。
そしてこうした傾向が、全般的に独創的なアイデアや創造的な思考を助ける可能性があります。
また、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)による2019年の研究では、朝型か夜型かは、遺伝子の影響を受けることが示唆されています。
これも認知能力に関わる原因の1つの可能性があり、夜型の遺伝子は認知能力に影響しているのかもしれません。
このような結果は、「強引に夜型から朝型へ切り替える」ことへの疑問を投げかけます。
私たち一人一人は、自分にとって過ごしやすい時間帯があり、自然な睡眠習慣が高いパフォーマンスを出す最善の方法であるといえるからです。
今回の調査では夜型には全体的に「認知能力が高い」という長所があり、やたらと夜型が持ち上げられましたが、おそらく朝型にも別の利点があると考えられています。
そのため、自分が朝型か夜型かをあまり心配する必要は無いのかもしれません。
とはいえ、これらは「十分な睡眠が取れているならば」という大前提があります。
いくら「夜型の認知能力が高い」と言っても、多くの会社・学校の始業時間は午前の早い時間に設定されています。そのせいで睡眠時間が短くなってしまえば、その人の認知能力は大きく低下するはずです。
夜型の印象が社会的にあまり良くはなく、「夜型は治すべき」という意見が多いのも、この点に原因があると考えられています。
こうした事情も踏まえ、現在では世界的に始業時間を遅らせるべきという議論も始まっています。学校では1限目をなくそうという提案さえあるのです。
そうなれば、夜型の人も夜ふかしによる寝不足や遅刻が多いというマイナスイメージが払拭され、社会で高いパフォーマンスを出せるようになるかもしれません。
参考文献
‘Night Owls’ Outsmart ‘Early Birds’, Study Shows
https://www.zmescience.com/medicine/night-owls-outsmart-early-birds-study-shows/
Sleep duration, chronotype, and lifestyle affect cognitive decline
https://www.news-medical.net/news/20240715/Sleep-duration-chronotype-and-lifestyle-affect-cognitive-decline.aspx
元論文
Sleep duration, chronotype, health and lifestyle factors affect cognition: a UK Biobank cross-sectional study
https://doi.org/10.1136/bmjph-2024-001000
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部