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見た目からパンダアリと呼ばれているものの、本当はアリですらありません。
パンダアリ(学名:Euspinolia militaris)は生物学的にいうと、ハチ目アリバチ科に属する寄生バチの一種なのです。
さらに見た目がパンダに似ているのは「メス」だけです。
パンダアリのオスには白黒の毛模様はなく、サイズもずっと大きくて、翅もちゃんと生えています。
一方のメスは翅がなくて空を飛ぶことはできませんが、代わりに体長の半分もある鋭い毒針を持っています。
この針は産卵器官が変化したものであり、寄生バチによく見られる特徴です。
そして白黒の毛模様は決してパンダにインスピレーションを受けたのではなく、天敵に強力な毒針を持っていることを知らせるための警告色だと研究者らは説明します。
この毒針は人間には致命的となりませんが、刺されたらかなりの激痛が走るといいます。
このように同じ種内でもオスとメスで色や形、サイズが大きく違う生き物を「性的二形」と呼びます。
実際にパンダアリのオスとメスは交尾シーンを見ない限り、ひと目で同じ種と判別するのは難しいそう。
またパンダアリの交尾はオスがメスを抱き抱えて、空中で行われます。
これには交尾中に天敵に襲われるのを避けたり、他のオスに邪魔されたり、メスが逃げ出すのを防止する目的があるようです。
パンダアリはこれだけ愛らしい見た目をしていますが、寄生バチに特有の恐ろしさも兼ね備えています。
パンダアリは自らのコロニーを形成せず、チリの暑く乾燥した沿岸地域で単独生活を送っています。
大人たちの食べ物は花の蜜や小さな昆虫です。
メスは交尾を終えて産卵期を迎えると、地中を掘り進めて、他種のハチが作った巣のありかを探します。
そして巣を見つけると、メスは産卵管を他種のハチの幼虫かサナギに刺し込み、卵を産みつけるのです。
その後、ふ化した子供たちは宿主の体を食べながらスクスクと成長していきます。
寄生された側からすると、たまったものではありませんね。
完全に成熟すると巣を飛び出して、大人としてのスタートを切り始めます。
メスの母親は2年間のライフサイクルのうちに、おおよそ2000個の卵を産むといわれています。
またパンダアリは、ふわふわな見た目で一見すると柔らかそうですが、実は毛の下はめちゃくちゃ硬いのです。
全身が強靭な外骨格に覆われていて、その硬さは標本にピンを刺すのに難航するほどだという。
この硬い外骨格は、暑く乾燥したチリの環境において体の水分損失を減らすためだといわれています。
硬い外骨格で覆うことで、体から水分がに出ていくのを防いでいるのです。
それからパンダアリは脚や触覚をすばやくこすり合わせることで、甲高い超音波を出すこともできます。
これは白黒模様と同じように天敵への警戒音の役目を果たしますが、それと同時に交尾のためのシグナル音としても機能していると考えられています。
以上がパンダアリについて知られていることです。
見た目こそパンダみたいに可愛いですが、中身はかなり恐ろしい能力者だったようですね。
参考文献
Panda ant: The wasps whose black and white females have giant stingers and parasitic babies
https://www.livescience.com/animals/insects/panda-ant-the-wasps-whose-black-and-white-females-have-giant-stingers-and-parasitic-babies
Creature Feature: Panda Ant
https://theethogram.com/2015/06/01/featured-creature-panda-ant/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部