映画『スター・ウォーズ』シリーズには、森林地帯が広がる緑豊かな惑星、砂漠の惑星、雪と氷の惑星など、SF好きな私たちの心をくすぐる惑星がたくさん登場します。

そして現実世界でも、宇宙の探査が進むにつれて、まるでSF映画に登場するような魅力的な惑星の存在が明らかになっています。

その名は「LHS 1140b」。

この惑星は、海王星のような氷で覆われた惑星ですが、「眼球」のように一部だけ氷が溶けて温暖な領域ができているという。

そしてこの領域は、我々にとっても非常に快適な環境と温度になっている可能性が高く、生命も存在しているかもしれないのです。

LHS 1140bに関する調査は、カナダのモントリオール大学(University of Montreal)に所属するルネ・ドヨン氏ら研究チームによって行われました。

詳細は、2024年6月21日にプレプリントサーバー『arXiv』で公開されており、今後、科学誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載される予定です。

目次

  • JWSTが48光年離れた太陽系外惑星「LHS 1140b」の秘密を暴く
  • 「眼球」みたいなスーパーアース

JWSTが48光年離れた太陽系外惑星「LHS 1140b」の秘密を暴く

太陽系外惑星「LHS 1140b」は、地球からくじら座の方向に約48光年離れた場所にあり、赤色矮星LHS 1140の周りを公転しています。

この惑星が最初に発見されたのは2017年であり、当初天文学者たちは、LHS 1140bが主にガスで構成された「ガス惑星」で、海王星(ガス惑星)の小型版だと考えていました。

2017年に描かれた「LHS 1140b」の想像図 / Credit:Wikipedia Commons_LHS 1140b

そしてLHS 1140bは、「ハビタブルゾーン(居住可能領域)」に位置していることから、生命が存在する可能性が高いと注目されてきました。

「ハビタブルゾーン」というのは、恒星との距離が適切で生命に必須される液体の水が存在可能な領域のことを指します。

LHS 1140bは全体が氷に覆われていると考えられていましたが、太陽系における土星の衛星エンケドゥラスのように、氷の下に液体の海を持つ惑星の可能性が高いと考えられていたのです。

このようないくつかの条件がそろっていることから、ある天文学者は、「地球外生命体の証拠を探すのに最適な場所」とさえ呼んでいます。

しかし最近、LHS 1140b関する情報は、大きく更新されることになりました。

2023年12月にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によって収集されたデータと、ドヨン氏ら研究チームの分析によると、そもそもLHS 1140bは、「ミニ海王星」ではないかもしれないというのです。

彼らの分析によると、LHS 1140bはガス惑星ではなく、地球と同じく、主に岩石や金属などで構成される「岩石惑星(地球型惑星とも呼ばれる)」の可能性が高いという

しかもLHS 1140bの質量は地球よりも大きいことが分かっており、「スーパーアース(巨大地球型惑星:地球の数倍程度の質量をもつ岩石惑星)」に分類される可能性が高いようです。

さらに研究者たちはこの惑星が、「眼球惑星(Eyeball Earth)」と呼ばれるタイプ、目玉のような見た目をしている可能性があると述べています。

目玉のような見た目という予測は、一体どういう根拠によるもので、どういう意味があるのでしょうか?

「眼球」みたいなスーパーアース

2023年12月にJWSTによって得られたデータを分析すると、LHS 1140bは、地球の約1.7倍の大きさで、質量も約6.6倍だと分かりました。

また、ガス惑星の特徴である「水素を豊富に含んだ大気」の証拠は得られませんでした。

むしろ、地球と同じく岩石などで構成されるスーパーアースである可能性が高かったのです。

さらにサイズに対する質量がそこまで大きくないことから、惑星質量の10~20%が水で構成されている可能性があることも分かりました。

「LHS 1140b」の新しいイメージ。氷に覆われた「眼球」のような惑星 / Credit:BENOIT GOUGEON, UNIVERSITÉ DE MONTRÉAL

さらにLHS 1140bの大気には、窒素が豊富に含まれている可能性も示唆されており、この点でも地球(窒素が78%を占める)に似ている可能性があります。

豊富な窒素は、地球のように気候を安定させる効果があるため、生命が生存するのに適した環境である期待が高くなります。

ただしLHS 1140bは、恒星からの距離やスペクトル分析から、基本的に表面が氷に覆われている可能性が高く、液体の水があるとしたら表面を覆う氷の層の下だろうと考えられていました。

ところが今回の研究では、LHS 1140bは「巨大な眼球」のような姿をしており、この目玉部分は温暖で氷が溶けて液体の海が広がっている可能性が強く示唆されたのです。

そのような不思議な状態になる理由は、LHS 1140bの自転が「潮汐ロック」を起こしているためです。

潮汐ロックとは、ある天体の自転と公転の周期が同期することで、公転する側の天体が常に主星に対して同じ面を向け続ける状態を指します。

潮汐ロックにより、いつも同じ面を向ける天体 / Credit:Wikipedia Commons_Tidal locking

最も身近なケースとしては、地球と月の関係が挙げられます。潮汐ロックにより、月は常に地球に対して同じ面しか見せていないため、裏側を見ることができません。

この現象を起こしている特徴が、赤色矮星LHS 1140の周りを公転するLHS 1140bにも見られるというのです。

地球に対して月が常に同じ面を見せていても、地球上の私たちが月の模様はいつも同じだと思うくらいで大した影響はありませんが、太陽のような恒星に対して惑星が常に同じ面を向けた場合は状況が異なります。

惑星が太陽に対して潮汐ロックを起こすと、特定の面だけが常に昼の状況となるため、惑星表面の一部分だけが他の領域に比べて加熱される状況になります。

これにより表面が水に覆われた惑星では、恒星に対し背を向けている側は常に氷に覆われているのに、恒星に面している側では温暖な海が広がる状況になるのです。

液体の海を持つと考えられるLHS 1140bは、まさにそのような状態になっていると予測され、まるで「眼球」のような見た目だと考えられているのです。

研究チームは、「LHS 1140bは、太陽系外惑星の表面に液体の水が存在することを間接的に確認できる最善の候補かもしれない」と述べています。

さらに楽観的な予測として、研究チームは恒星との位置関係から、LHS 1140bの眼球部分の中心は非常に快適な20℃程度の表面温度になる可能性があると話しています。

そうなれば、この惑星には生命が存在する可能性も非常に高くなると考えられます。

今回の報告は、地球から48光年離れた場所に、氷に覆われながらも気温20℃の快適な海を持ち、常に昼の状態となっている惑星が存在する可能性を示すものです。

そんな惑星があるとしたら非常に魅力的です。宇宙旅行をするようなSF作品なら、この惑星は「宇宙のリゾート地」として登場するかもしれません。

とはいえ、これらすべては証明されたわけではなく、1つの可能性に過ぎません。

今後、さらなる調査によって「眼球惑星」に対する理解を深めていく必要があるでしょう。

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参考文献

Found with Webb: a potentially habitable world
https://nouvelles.umontreal.ca/en/article/2024/07/08/found-with-webb-a-potentially-habitable-world/

JWST Spots Signs Of Earth-Like Atmosphere Around The Best Planet To Look For Life
https://www.iflscience.com/jwst-spots-signs-of-earth-like-atmosphere-around-the-best-planet-to-look-for-life-75004

Giant ‘Eyeball’a Perfect Place to Look For Life Outside The Solar System
https://www.sciencealert.com/giant-eyeball-a-perfect-place-to-look-for-life-outside-the-solar-system

元論文

Transmission Spectroscopy of the Habitable Zone Exoplanet LHS 1140 b with JWST/NIRISS
https://doi.org/10.48550/arXiv.2406.15136

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「宇宙旅行のリゾート地!」氷惑星の中に人間の住めそうな領域が出来た惑星