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対照的に、CDSの人は何らかの異常で、本来脳に備わっているはずの認知能力や処理速度が低下しています。
処理速度が遅いということは、情報を取り込んで理解し、応答するのに時間がかかることを意味します。
これはCDSが以前まで「鈍い認知テンポ(Sluggish Cognitive Tempo:SCT)」と呼ばれていたことからもよくわかります。
CDSの人は周りの人々に比べて、話の理解や情報の処理速度のテンポが遅いので、今問題となっていることについて行けないことが多々あります。
そうするとどうなるでしょうか?
話について行けないので、話を聞くことを放棄してしまい、自分の中だけで空想を楽しみ始めたり、一点見つめたままボーっとしてしまうのです。
このように、認知行動に追いつけなくなって離脱してしまうことから、現在この症状はCDS(認知的離脱症候群)と呼ばれるようになっています。
そしてCDSを持つ人たちもまた、日常生活の質や学業成績の低下、社会的交流において大きな困難に直面しやすくなっています。
さらにCDSが深刻な場合だと、活動力も低下し、何事にも無関心になって、引きこもりになるリスクもあるという。
社会生活を送る上では、ADHDとCDSはよく似た不利な特性があります。そのため混同されやすい面を持ちますが、症状としてはまるで異なります。
CDSにはADHDのように、自分の好きなことには過度な集中力を発揮できるということもないのです。
CDSがADHDと間違われやすい原因の1つは、CDSを定める公的な基準がまだ存在していないため、診断が困難な点があげられます。
一部の心理学者は、質問票と行動観察を組み合わせて、「頻繁な空想、頭の中がボンヤリする、処理速度が遅い」などの程度を評価することでCDSの診断を行っています。
しかしCDSと判断できても、症状をサポートして改善するための治療法も確立されていません。
認知行動療法によって最良の対処法を身につけたり、ADHDに使用されるのと同じ治療薬が有効との意見もありますが、まだエビデンスは得られていないといいます。
そして最大の問題は「CDSの知名度が非常に低いこと」と専門家は指摘します。
CDSはADHDに比べると社会的な認知度が低く、今回初めて聞いたという方も多いでしょう。
そのせいでCDSは他の症状と混同されて正しい治療がされなかったり、悩みが理解されずに「単にだらしないだけ」とか「努力が足りないからだ」と批判されやすいのです。
そこでCDSの病理を根本から理解し、原因の究明や治療法の開発を進めることが、症状に苦しんでいる人を支援する上で急務だと考えられています。
おそらく、CDSが一般に認知されていないために、隠れCDSの人が世界中にたくさんいるはずです。
専門家らは「CDSはもっと注目されるべき疾患であり、ADHDとは分けて考えるべきでしょう」と話しています。
参考文献
Find It Hard to Focus? You May Have Cognitive Disengagement Syndrome
https://www.sciencealert.com/find-it-hard-to-focus-you-may-have-cognitive-disengagement-syndrome
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。