多くの人は、血糖値が高い状態が続くと、健康リスクがあることを知っています。

同じように、血糖値を良い状態に保つために、体を動かすことが良いことも、多くの人が知っています。

では、同じように体を動かしても、時間帯によって、その効果が変わる可能性があることは知っているでしょうか?

最近、スペイン・グラナダ大学のルイス准教授らの研究グループは、過体重もしくは肥満の成人男女を対象として、体を動かす時間帯と血糖値との関係に着目した研究結果を発表しました。

その結果を見ると、夜の時間帯に体を動かした方が、血糖値に関する指標が低くなることが分かりました。

日中忙しい社会人でも、夜時間の運動は採用しやすいため、この報告は多くの人の助けになるかもしれません。

この成果は、肥満の人たちに良い治療を促進するための研究結果が掲載される学術雑誌『Obesity』に2024年6月10日付けで公開されています。

目次

  • 日常生活中の血糖値を推定できるCGMとは?
  • 血糖値が気になる人は夜に体を動かそう

日常生活中の血糖値を推定できるCGMとは?

実のところ、今回の研究が発表される前にも、午後や夕方以降の時間帯に体を動かすことが血糖値に良いことを示唆した研究はいくつかあります。

午後や夕方以降の運動が血糖コントロールに良い理由は、今のところはっきりと分かっているわけではないものの、どうやら骨格筋(筋肉)の働きが関係しているようです。

そもそも筋肉は、私たちが日常生活で食べた糖質を消費する、人体最大の血糖消費器官ですが、血糖値に大きな影響を与えるグルコース(ブドウ糖)を取り込む筋肉の効率が、午後に落ちることが分かっています。

そして、その筋肉の効率が落ちる時間帯に体を動かし、筋肉を収縮させることで、グルコースの取り込みが促され、血糖コントロールにプラスの効果が期待できるというのです。

ただ、体を動かす時間帯に着目した過去の研究では、早朝に代表されるような空腹時血糖値に焦点を当てており、日中の活動や食事の影響をより受ける24時間平均や夜間の血糖値との関係に着目した研究が不足しているという課題がありました。

この課題を解決する測定機器として、近年、肥満や糖尿病関連の研究で使われているのが持続グルコースモニタリングデバイス(Continuous Glucose Monitoring Device、以下「CGM デバイス」)です。

二の腕やお腹などにセンサーを貼り付けるCGMは、血糖値を持続的に推定できる / Credit: Canva

このデバイスは、数分もしくは数十分ごとに自動的に測定が行われ、装着した人の日常生活中の血糖値を継続的に評価することができます。

なお、このCGMデバイスで得られた測定値は血糖値を推定する指標として使われていますが、厳密には、CGMデバイスは細胞と細胞の間に存在する間質液中のグルコース濃度を測定しています。

今回、ルイス准教授らは、午後もしくは夜に身体活動を増やすことが、24時間や日中、夜間のグルコース濃度の低さに繋がるのか、CGMデバイスを用いることで、詳しく調べました。

血糖値が気になる人は夜に体を動かそう

研究の対象者は、30~60歳、BMI(体格指数)が25~40で、少なくとも1つの代謝障害(例えば、血圧が高め)を持つ186人の男女でした。

対象者には、14日間にわたり身体活動のデータを記録するための加速度計と、グルコース濃度を記録するためのCGMデバイスを装着した状態で過ごしてもらいました。

運動のメイン時間帯を、朝(6~12時)、昼(12~18時)、夜(18~24時)に分けて調査しました。特定の時間に集中して行われていない場合は「混合」とされました。

なお、ここでいう運動とは、ジョギングやランニングといった本格的な活動はもちろん、自転車を漕ぐ、散歩といった軽い活動も含まれます。

そういった分類をした上で分析された結果を見ると、運動しなかった場合に比べて、夜に体を動かした場合には、24時間を通したグルコース濃度、起きている時間帯のグルコース濃度、夜間のグルコース濃度が明らかに低くなっていました

また、昼(12~18時)に体を動かした場合でも、24時間を通したグルコース濃度、夜間のグルコース濃度が低くなっていました。

一方、朝もしくは混合と評価された場合、運動しなかった場合とあまり違いがありませんでした

また、こういった関係は、空腹時血糖値が高めの人など、血糖コントロールに問題を抱えている人でより著しいことや、男性と女性で傾向が同じだったことも分かりました。

この結果を踏まえ、ルイス准教授らは、血糖をコントロールするという観点から見ると、身体活動の量(合計の時間)だけではなく、体を動かすタイミングも重要なことが示されたと述べています。

これからの暑い時期は日が落ちた夕方以降に散歩をすることも良い健康行動 / Credit: 写真AC

今回、研究で運動として定義されているのは安静時のエネルギー消費量の3倍以上の身体活動とされていて、これは先ほど述べた通り、自転車に乗る、散歩といった軽い生活活動でも良いとされています。

また今回調査された対象者の「夜」の運動時間は1日当たり約30分程度だったため、その程度の軽い身体活動と時間でも十分効果が見られるようです。

この結果は、因果関係などが明確に説明されているものではありませんが、夜に軽く身体を動かすだけで血糖値を下げられるというのは、運動のモチベーションもあがり、社会人には嬉しい情報です。

これからの暑い季節、太陽が沈んだ後の夜散歩を楽しんでみるのはいかがでしょうか?

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参考文献

Evening workouts are best for blood sugar control
https://www.earth.com/news/evening-workouts-are-best-for-blood-sugar-control/

改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』/(独)国立健康・栄養研究所
https://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf

元論文

Impact of lifestyle moderate-to-vigorous physical activity timing on glycemic control in sedentary adults with overweight/obesity and metabolic impairments
https://doi.org/10.1002/oby.24063

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 “糖尿病”への対策「すぐできる」夜ウォーキングがもたらす良い効果とは?