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これまでの研究で、鳥類の一部は「コショウの木」「アリのギ酸」「発酵した果物」といった刺激物を積極的に食べたり、体に塗ったりすることが知られています。
こうした行動には基本的に、抗菌作用や高い栄養価を得る目的があるといいます。
しかし専門家らはそれだけでなく、「鳥が刺激物に接することで精神的にハイになっているのではないか」とも考えているのです。
それでは、鳥たちの珍妙な行動の世界に分け入ってみましょう。
目次
カラスやインコ、ハトなどの鳥類は以前から、刺激性の食物を自ら進んで求めることが知られていました。
中でも特に有名かつ奇妙なのは「蟻浴(ぎよく、anting)」という行動です。
蟻浴には主に2つのパターンがあります。
1つは鳥が自らアリをくちばしで拾って食べたり、羽毛に擦り付ける能動的な蟻浴。
もう1つはアリの群れの中にしゃがんで、全身にアリを自由に歩き回らせる受動的な蟻浴です。
この受動的な蟻浴が、いわゆる「アリ風呂に浸かる行動」と表現されます。
それから別の鳥たちは、発酵してアルコール成分を豊富に含んだ果物を食べることがあります。
鳥といえどもアルコールを摂取すると、私たちと同じように酔いが回ります。
これまでにもアルコールに酔った鳥たちが窓ガラスや車にぶつかったり、木から落ちたりする様子が何度も目撃されてきました。
2021年には西オーストラリア州で、熟しすぎたマンゴーを食べて泥酔した6羽のハゴロモインコが動物病院に搬送されたケースも報じられています(abc news, 2021)。
こちらの動画では、どろっどろに酔っ払ったニュージーランドバトの姿が見れます。
(※ 音量にご注意ください)
それからオーストラリア国立大学(ANU)による最近の研究では、オーストラリア領のノーフォーク島に生息するインコ(学名:Cyanoramphus cookii)が、刺激性のあるコショウの木の葉っぱや樹皮を噛みちぎって食べたり、全身に塗りたくる様子が新たに観察されました(Austral Ecology, 2024)。
鳥たちはどうして刺激質をわざわざ求めるのでしょうか?
蟻浴の目的については初めて発見されて以来、1世紀以上も専門家たちの頭を悩ませてきました。
しかし現在では、その目的の大きな部分は解明されています。
鳥たちが欲しているのは、アリが防御のために放出する「ギ酸」です。
ギ酸には有害なダニや寄生虫、菌類を寄せ付けないための化学物質が含まれています。
そこで鳥たちはギ酸を体に塗ったり、口から摂取することで、体の内外の殺菌や殺虫効果を得ているのです。
これはコショウの木についても同様の目的があると考えられています。
コショウの木には「ピペリン」という化学物質が含まれており、抗菌性や防虫性の薬効を持っていることが知られているのです。
そのためノーフォーク島のインコはピペリンを体に塗ることで、害虫や寄生虫よけにしていると見られます。
では、発酵した果物についてはどうでしょうか?
これにはより深い進化的な背景があるといいます。
果物は熟すにつれて甘味が増し、栄養価が高くなります。さらに熟成が進むと糖分が発酵し始めて、果物内のアルコール濃度が上昇していきます。
発酵中に生成された揮発性のアルコールは空気中に運ばれ、その芳醇な香りが鳥たちを引き寄せるのです。
鳥たちは発酵した果物を食べることで高いエネルギーが得られ、反対に果物の方は鳥たちに食べてもらうことで、種子を広い範囲に散布することができます。
つまり、発酵した果物が鳥たちを惹きつけることで、双方にウィンウィンな進化的関係が築かれるのです。
しかし専門家らは、鳥たちがギ酸やアルコールのような刺激物を求めるのは、こうした理由からだけではないだろうと考えています。
専門家いわく、「鳥たちは刺激物を求めることで精神的にハイになる状態を楽しんでいるではないか」と推測するのです。
例えば、ノーフォーク島のインコがコショウの木をせっせと噛み砕いて、体に擦り付ける間、彼らは「特別に生き生きしているように見えた」と研究者は話しています。
さらに蟻浴をする鳥たちは、しばしば恍惚状態に達することがあるというのです。
それからアルコール摂取による酩酊状態は、私たちもよく知っているように、血行が良くなって気分が高揚し、疲労感が軽減したり、リラックスムードを高めてくれます。
特にお酒を飲む行為においては多くの人にとって、もはやアルコールから得られる健康メリットではなく、気分を高揚させることがメインとなっているでしょう。
これと同じような作用は、実際に酔っぱらった鳥たちの陶然とした表情からも十分に推察できることです。
以上のことから、私たちヒトだけでなく、鳥たちも遺伝的にアルコールや刺激物を求めてハイになるように進化してきたのかもしれません。
人類が酒飲みになった歴史的背景については、こちらの記事をご参照ください。
参考文献
Parrots may have evolved to get high on aromatic plants, stinky ants and alcohol
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/parrots-may-have-evolved-to-get-high-on-aromatic-plants-stinky-ants-and-alcohol/
元論文
Apparent anti-parasite behaviour in the Norfolk Island green parrot Cyanoramphus cookii
https://doi.org/10.1111/aec.13525
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。