アスリートはその運動量の多さから、より多くの睡眠時間が必要とされ、体と心を回復させるためにも質の高い睡眠は不可欠です。

さらに、学生アスリートの場合、日々の練習や試合に加え、授業や課題、テスト勉強といった学業上のタスクも沢山あります。

このような状況では、スポーツと学業を両立しながら、十分な睡眠をとることが難しくなりますが、睡眠不足は集中力の低下や怪我のリスクを高めるなど、悪影響を及ぼします。

最近、イギリスのハートプリー大学に所属する研究グループは、同国の学生アスリートの睡眠状況を調べた結果、朝練習の頻度が多い人の睡眠状況が悪いことを明らかにしました

またこの調査では、夜練習の頻度や練習時間の長さそのものは睡眠にさほど影響を及ぼしていなかったことも分かり、特に朝練習を避けることが学生アスリートの睡眠を改善し、スポーツと学業の両立に大切なことを示唆しています。

日本の学生スポーツ界でも朝練習を取り入れているチームは多いですが、その中には競技力の高いチームも存在します。

朝練習を取り入れながら競技力を高めるコツは何なのでしょうか?

目次

  • 朝練習をしている学生アスリートの睡眠が悪い
  • 朝練習を取り入れながら競技力を高める学生アスリートの特徴

朝練習をしている学生アスリートの睡眠が悪い

学生アスリートは、トレーニングに費やす時間、移動や試合に伴う生活環境の変化といったアスリート固有の問題に加え、授業、課題、テスト勉強などの学業上のタスクもあるため、睡眠が乱れがちです。

そこで、ハートプリー大学に所属する研究グループは、学生アスリートの睡眠状況に加え、睡眠状況の悪いアスリートの特徴を詳しく調べました。

対象となったのは、イギリスのある1つの大学・カレッジセンター(16歳から18歳までの学生が進学するための教育機関)に在籍する学生157名で、その平均年齢は18歳でした。

調査対象となった全員が競技スポーツに取り組んでおり、試合を含むスポーツ活動や授業は全て平日に行われ、週末には予定された活動がありませんでした。

調査では、睡眠研究で広く使われているピッツバーグ睡眠質問紙(PSQI)などを用いることで、睡眠状況を明らかにしました。

また、朝練習の頻度(午前9時までに行われるスポーツ活動の頻度)や夜練習の頻度(午後9時以降に行われるスポーツ活動の頻度)に加え、スポーツや学業に費やす時間などについても調査し、睡眠状況との関係を探りました。

得られた結果を見ると、まずおよそ半数の学生アスリートの睡眠の質が悪いことが分かりました。

また、週末に比べると平日では寝床につく就寝時間が平均38分早い一方で、起床時間は平均118分も早くなっていて、結果として睡眠時間が1時間以上も少なくなっていました

実際、睡眠時間が7時間未満の人は、週末では10%未満だった一方で、平日ではおよそ4人に1人であったことから、平日の睡眠時間が足りていないことが明確です。

さらに研究グループは、朝練習の頻度が多い学生アスリートで特に睡眠の質が悪く、平日の睡眠時間が短いことを見つけました。

睡眠不足は学業にもスポーツにも悪影響 / Credit: Canva

平日と週末の睡眠時間や就寝・起床時間がずれることは、社会的ジェットラグ(社会的時差ボケ)と呼ばれ、体内時計の混乱を引き起こします

今回の研究結果は、授業のある平日では就寝時間を早めても、それ以上に起床時間が早くなってしまうために、社会的ジェットラグが起きやすいことを示しています。

さらに、朝練習を取り入れている学生アスリートでは、より朝早くからの活動が強いられるため、社会的ジェットラグの影響が強くなり、良質な睡眠が妨げられやすかったと考えられます。

研究グループは、スポーツ活動のスケジュールを調整して早い時間帯の練習を避けることは、睡眠を改善する手段となり、スポーツパフォーマンスと学業成績を向上させる可能性があると指摘しています。

実のところ研究の世界において、朝練習のマイナス面が指摘されることは珍しくありません。

睡眠研究の専門家であるアメリカ・アリゾナ州立大学のヤングステッド教授は、スポーツ界に残る伝統や指導者の姿勢などが練習のスケジュールを変える上で大きな障壁になっていることを指摘した上で、練習時間を遅い時間にシフトすることが、アスリートに有益な効果をもたらす可能性があると言及しています。

その一方、箱根駅伝に出場するランナーのように、朝練習を取り入れている学生アスリートの中には競技力が高い者も多くいます。

なぜ彼らは朝練習を取り入れながら、競技力を高めることができるのでしょうか?

朝練習を取り入れながら競技力を高める学生アスリートの特徴

前に説明したイギリスの学生アスリートを対象とした調査では、対象者は、週末にはスポーツ活動や授業が計画されていませんでした。

そのため、平日と週末の睡眠サイクルにバラつきが生まれやすかったと予想されます。

エリートラグビー選手を対象としたある研究では、睡眠の規則性を表す指標であるSRI(Sleep Regularity Index)というスコアが悪い人は、睡眠時間が短いことが示されており、睡眠に一貫性のないアスリートは、睡眠問題を抱えている場合が多いです。

したがって、例えば、平日も週末も午後9時に寝て、午前5時に起床するといった一貫した生活リズムを確立することができれば、朝練習を取り入れても、良質な睡眠を確保しやすいと考えられます。

箱根駅伝の強豪校の中には、門限や消灯時間を定めた上で寮生活を送りながら朝練習を行っているチームがあります。

これらは、朝練習を含めた日々の規則正しい生活が、むしろ睡眠の一貫性を保つことにつながっていると解釈できます。

一方、例えば、学業のタスクが多く、アルバイトや一人暮らしをしている学生アスリートの場合には、そういったサイクルを確立するのは難しいでしょう。

また、クロノタイプと呼ばれる、一般的には「朝型」「夜型」と評価される人が自然に持つ体内時計は遺伝に加え、年齢の影響も受け、大学生年代では夜型に移行し、およそ60歳で朝型に戻る人が多いとされています。

大学生年代は夜型のクロノタイプ(体内時計)になる人が多い / Credit: 写真AC

これに基づくと、学生アスリートの場合、仮に睡眠の一貫性を保つ努力をし、早めに寝床についても、すぐに寝られない問題を抱えてしまう人もいると考えられます。

そのような人の場合、朝練習を避けた方が学業とスポーツの両立にはプラスに働くでしょう。

まとめると、朝練習そのものが原因ではなく、朝練習をすることで睡眠時間が確保できなかったり、睡眠の一貫性が失われやすい現実が問題と言えます。

近年では、始業時間の早い1限目に授業があること自体も睡眠や学業にマイナスの影響を与えると言われています。

多くの学生が充実した生活を送るためにも、社会に根強く残る伝統を変え、一人ひとりの体内時計に合った過ごし方を目指す時代が来ているのかもしれません。

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参考文献

Early morning practices can impact sleep and academics
https://theithacan.org/26892/sports/sports-features/early-morning-practices-can-impact-sleep-and-academics/

元論文

Early morning sport scheduling is associated with poorer subjective sleep characteristics in British student-athletes
https://doi.org/10.1111/sms.14598

Delaying early morning workouts to protect sleep in two-a-day athletes
https://doi.org/10.3389/fphys.2024.1346761

Routine, Routine, Routine: Sleep Regularity and its Association with Sleep Metrics in Professional Rugby Union Athletes
https://doi.org/10.1186/s40798-024-00709-5

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ただの伝統?朝練は学生アスリートにとってデメリットの方が大きい