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ここでチームは、不要なサポートに対して次のような仮説を立てました。
「望まないサポートを受け続けると、自律性において欲求不満が生じ、それが仕事に対する感情的な反芻(はんすう)の高まりを引き起こして、仕事からの心理的ディタッチメントを妨げる」
研究チームの言葉には専門的な表現が多いですが、これは一体どういうことを意味しているのでしょうか?
「自律性の欲求不満」は文字通り、過保護なサポートを受けることで、「自分は一人でやれている」という自律性の感覚が欠乏してしまうことを指します。
「感情的な反芻」とは、同じことを感情的に何度も考え込んでしまうストレス過多な思考のことです。
ここでは仕事の問題について、職場を離れても繰り返し考えてしまうことを指します。
そして「心理的ディタッチメント」とは、勤務時間後に物理的・心理的に仕事から距離を取ることを指します。
これは仕事から受けた疲労やストレスから回復するのにとても重要であり、心理的ディタッチメントができないと、プライベートでも仕事のことばかり考えてしまい、メンタルヘルスに悪影響が出ます。
今回の調査では、この仮説の真偽が検証されました。
チームは「望まないサポート・ストレスレベル・感情的な反芻・心理的ディタッチメント」の関連性を調べるために、2つの調査を行いました。
1つ目ではドイツ在住の279名の社員(男女ほぼ同数、平均年齢42.5歳)を対象としています。
参加者の勤続年数は平均20年で、週に平均39時間の労働をこなしています。
参加者はまず、職場で「望まないサポート」をどれだけ受けているかをアンケート調査で回答しました。(質問例:「この2週間で、あなたの同僚や上司は、あなたがそれを望んでいるかどうかに関わらず、あなたを助けようとしましたか」)
ここでは適切なサポートがあった一方で、望まないサポートがどの程度あったかを測定しています。
それが終わると、職場で受けているストレスレベルや自律性の程度、それから感情的な反芻と心理的ディタッチメントの高さもアンケート調査で評価しました。
2つ目では、同様の調査を2週間間隔で2回行っています。
最初に194名の社員が参加しましたが、2回の調査を完了したのは165名でした。ここでは男性67%、女性33%、平均年齢は45歳で、勤続年数は平均12年となっています。
そしてデータ分析の結果、チームの予想通り、望まないサポートを日常的に多く受けていた社員ほど、職場でのストレスレベルが高く、自律性において欲求不満を感じていることがわかりました。
さらに自律性の欠乏によるフラストレーションは、感情的な反芻の頻度を高めて、心理的ディタッチメントを低下させる関係にあることが確かめられたのです。
またチームは2つ目の調査から、「自律性の欲求不満はすぐには解消されず、数週間にわたって影響を及ぼし、勤務後の感情的な反芻の増加と、仕事からの心理的ディタッチメントの低下を継続させていた」と述べています。
これらの結果は、過剰なサポートが予想以上に受け手のメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、勤務中だけでなくプライベートにも心理的負担を与えてしまうことを示唆するものです。
人にはそれぞれ自分のペースや確立された仕事の進め方があります。それを無視して相手の仕事に手を貸すことは、相手のペースを乱し自律性を無視することに繋がる恐れがあります。
社員間でサポートを提供し合うこと自体はいいことに変わりありません。
しかしながら、相手が真に助けを必要としているときを見極めず、何でもかんでも「手伝おうか?」と手助けしていると、社員のモチベーションが低下し、ひいては職場全体の生産性も落ちてしまうかもしれません。
参考文献
Unwanted help is frustrating, study finds
https://www.psypost.org/unwanted-help-is-frustrating-study-finds/
元論文
When help is not wanted: Frustrated needs and poor after-work recovery as consequences of unwanted help at work
https://doi.org/10.1002/smi.3415
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。