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ソーシャルメディア上で反響を呼んだことで、この写真はニュージーランド・オークランド博物館(Auckland Museum)の海洋生物学者であるマリアンヌ・ナイガード(Marianne Nyegaard)氏の目に止まりました。
そして彼女はシーサイド水族館に連絡を取り、マンボウの遺骸の写真と遺伝子サンプルを送ってもらい、それを精査。
その結果、このマンボウが2017年に新種記載されたばかりの「カクレマンボウ」であることが判明したのです。
実はカクレマンボウを最初に新種として発見したのは、何を隠そう、ナイガード氏自身でした。
フグ目マンボウ科マンボウ属は現在のところ、
・マンボウ(学名:Mola mola)
・ウシマンボウ(学名:Mola alexandrini)
・カクレマンボウ(学名:Mola tecta)
の3種類に分かれています。
このうち、マンボウとウシマンボウは何百年も前から存在が知られていましたが、カクレマンボウは標本こそ見つかっていたものの、ずっとマンボウと混同されていたのです。
しかしナイガード氏と同僚たちは、マンボウの研究を進める中で、ある標本が従来の種とは形態的に異なることに気づきました。
そこでDNAサンプルを解析したところ、通常のマンボウとは遺伝的に異なる未記載種であることが判明したのです(Zoological Journal of the Linnean Society, 2017)。
標本自体は100年以上も前に見つかっていたにも関わらず、その正体がずっと人の目から隠されていたことから、ラテン語で「隠された」を意味する「tecta」にちなんで、「カクレマンボウ(Mola tecta)」と命名されました。
和名の「カクレ」も同じ意味に由来しています。
さらにその後の調査でカクレマンボウの生体も見つかっており、それらは主にオーストラリア南東部、ニュージーランド近海、南アフリカ共和国沖で確認されています。
このことから、カクレマンボウは「南半球の温帯域にのみ生息している種なのだろう」と考えられるに至りました。
ところが、2019年にアメリカ西海岸のカリフォルニア州にカクレマンボウが漂着したことで、この説に異議が唱えられます。
そして今回、アメリカ北西部のオレゴン州のビーチにも漂着したことから、いよいよ「カクレマンボウは北半球の海にも生息する」ことが確実視されてきました。
またシーサイド水族館は「今回見つかったカクレマンボウはこれまでに採取された標本の中で最大個体と見られる」と述べています。
カクレマンボウは現時点で、最大全長2メートル40センチほどにまで成長すると推定されていますが、マンボウやウシマンボウに比べて詳しい生態が解明されていないため、この推定値よりさらに巨大になる可能性もあるという。
ちなみにこれまでに見つかっている世界最大のマンボウは、2021年にポルトガル領アゾレス諸島のファイアル島沖で見つかったウシマンボウの個体で、全長3メートル25センチ、体重2744キロと記録されています。
その実際の姿がこちら。
新たに見つかったカクレマンボウの遺骸は、そのまま打ち上がった場所に放置され、自然の処理に任されるという。
カクレマンボウの皮膚は非常に丈夫で、海鳥などが腐肉をついばむのは難しいため、「少なくともあと数週間は海水浴客がこの珍しい魚を見ることができるでしょう」とシーサイド水族館は話しています。
参考文献
Giant 7-foot sunfish found on Oregon beach turns out to be newly discovered species
https://www.foxweather.com/earth-space/giant-hoodwinker-sunfish-oregon
Rare 7-foot fish washed ashore on Oregon’s coast garners worldwide attention
https://phys.org/news/2024-06-rare-foot-fish-ashore-oregon.html#google_vignette
Hoodwinker Sunfish, Mola tecta Nyegaard et al 2017
https://australian.museum/learn/animals/fishes/hoodwinker-sunfish-mola-tecta/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。