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しかし一方で、こうした連続的に意思決定している際に、私たちの脳がどのような働きをしているかは知られていません。
そこでチームは、未来の当たりを「待ち続けるか、やめるか」の意思決定に関わる脳メカニズムを明らかにしようと考えました。
チームは今回、魚釣りのような「待つか、やめるか」の状況を実験室で再現し、参加者の脳活動を機能的MRIを使ってリアルタイムで記録しました。
脳活動の記録中に、参加者はまず、数十秒待ってからジュース(報酬)を与えられました。
これは釣りの例で魚が釣れたことに相当します。
次に参加者には、同じ状況でもう一度ジュースを待ってもらいました。このとき、ジュースの量や待ち時間をさまざまに変えています。
ただし先と違うのは、参加者がジュースを得られるまで待ち続けることもできれば、好きなタイミングでやめることもできたことです。
これは「待つか、やめるか」の意思決定に相当します。
実験の結果、参加者は最初に報酬を得られたときの待ち時間が短く、飲んだジュースの量が多いほど、より長く報酬を待ち続けることがわかりました(上図を参照)。
つまり、成功経験の大きさが、意思決定の段階における「待ち続けることの好ましさ」の程度に影響していたのです。
これは誰もが納得するところでしょう。
最初に選んだ釣り場でいきなり大物が釣れたら、その場所に留まろうと思いますし、パチンコでも最初に座った場所で確定演出が来たら、簡単には他へ移らないはずです。
そしてチームは次に、意思決定の段階で、ジュースが得られるまで待ち続けたときの脳活動を調べてみました。
その結果、報酬を期待して待ち続けているときには、脳内の「前頭前野」と「海馬」の領域が活発に活動していることが判明したのです。
反対に、報酬を待ち続けているときに前頭前野の活動が小さくなったタイミングで、参加者は待つのをやめていました。
この結果は、未来の報酬を「待ち続けるか、やめるか」を意思決定するプロセスに「前頭前野」と「海馬」が大きく関わっていることを示すものです。
特に前頭前野はヒトで最も発達している脳領域であり、状況にそぐわない思考や行動を抑制するなど、精神のコントロール装置として働くことが知られています。
チームはこの前頭前野の働きが「未来への期待と諦め」にとって重要な役割を果たしている可能性が高いと考えました。
これに従うなら、未来の大当たりをいつまでも辛抱強く待ち続ける人は前頭前野の働きが強く、逆に当たりが来ないとすぐに諦める人は前頭前野の活動が少ないのかもしれません。
しかし、これはどちらが良い悪いというものでもないでしょう。
当たりが来なくても辛抱強く待ち続けることが利点になるシチュエーションもあれば、ギャンブルのように、負け続けてもやめないことが不利益になる場合もあります。
今回の知見を利用すれば、例えばギャンブル依存症を改善する新たな治療法の発見につながるかもしれません。
逆に企業が目をつけたら、抜け出せないパチンコ台やついつい課金しまくってしまう10連ガチャの設計に利用されてしまうかもしれませんね。
参考文献
待つか?あきらめるか?未来の報酬を待ち続けるための脳機能を解明
https://www.nips.ac.jp/release/2024/05/post_538.html
元論文
Continuous decision to wait for a future reward is guided by fronto-hippocampal anticipatory dynamics
https://doi.org/10.1093/cercor/bhae217
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。