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研究グループは、この実験に取り組むにあたり、ストレスホルモンであるコルチコステロンの働きに注目し、仮説を立てました。
具体的な仮説は、激しい運動をすると、コルチコステロンの概日リズム(生物が持つ約24時間の周期で、生物時計とも呼ばれます)が乱れ、その結果、活動量や体温が低下し、運動による減量効果が弱まるというものです。
この仮説を検証するために、研究グループはマウスを次の3グループに分けて実験を行いました。
・安静群(運動をしないグループ)
・中強度群
・高強度群
ここでいう中強度の運動は、血中乳酸値が急上昇し始めるポイントを基準にしています。
このようなポイントを「乳酸性作業閾値」といい、これを超えると、アドレナリンの分泌が増えて糖質の利用が高まるほか、運動に「きつさ」を感じやすくなると言われています。
高強度群では、この「乳酸性作業閾値」を大きく超える強度で運動させました。
運動内容はいずれも、30分間のトレッドミル走です。
また、トレッドミル走以外の活動量と深部体温の計測のために、小型の計測装置を使用し、運動6時間後の起床前にコルチコステロンの測定も行いました。
実験の結果、高強度群のマウスでは、運動後の活動量と深部体温が著しく低下していることが分かりました。
また、運動から24時間後の体重変化では、運動しなかったグループ(安静群)と比べて、激しい運動をしたグループ(高強度群)の方が体重が増加していました。
さらに、研究チームは身体活動と深部体温が似たような概日リズムを持っていることに注目し、運動後の両者のタイミングのズレを分析しました。
その結果、通常は深部体温の上昇よりも身体活動が先行するはずのものが、激しい運動後ではその関係が逆転し、深部体温の上昇が身体活動よりも先に来ることが分かりました。
加えて、運動6時間後のコルチコステロンが高いほど、運動後の活動量が低下しにくい傾向も確認されました。
つまり、激しい運動をすると、その後の活動量や深部体温の低下などが引き起こされるため、結果的に運動しなかった場合よりも逆に体重増加につながる可能性があるのです。
これは最初に述べた、激しい運動がストレスホルモンであるコルチコステロンの概日リズムの乱れを起こすことで減量効果を弱めるという、研究チームの仮説を裏付けるものです。
得られた結果は、研究グループの立てた仮説を支持するもので、激しい運動で期待した効果が得られない理由を説明する一因になる可能性があります。
ただし、この研究は動物実験のため、得られた結果をそのまま私たち人間に適用するには限界があります。
研究グループも、人間を対象とした場合、運動後の活動量に対する反応が遺伝的背景、社会的背景、生活条件、食習慣、その他の日常生活の活動などのノイズになる要因が多いため、条件をコントロールしやすい動物実験を用いたとしています。
このアプローチは、運動がその後の活動量に及ぼす影響のメカニズムを明らかにするために有効な一方で、見方を変えると、人間の場合、運動後の日常生活の活動が色々な影響を受けることを意味しています。
それを踏まえても、今回の研究成果は運動の効果が運動後の活動量にも及ぶことを示した貴重なデータです。
激しい運動をして、EPOC(激しい運動後にエネルギー消費が高まる効果)が得られたとしても、それ以上に日常生活の活動量が減ってしまえば、その効果は打ち消されてしまいます。
運動を頑張りすぎて日常生活への支障を感じる人は、心地よい運動にとどめておくことで、運動と生活活動の足し算である身体活動の総量を高めることが出来るのかもしれません。
参考文献
一度の激しい運動がその後の身体活動量と体温を下げ体重を増やしてしまう
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20240524140000.html
元論文
Acute Vigorous Exercise Decreases Subsequent Non-Exercise Physical Activity and Body Temperature Linked to Weight Gain
https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000003487
ライター
ナゾロジー編集部
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。