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スペイン・バレンシア工科大学(UPV)によると、これは災害時などに建物が全壊するのを防ぎ、被害を最小限に抑える効果があるとのこと。
通常の建築では、最初にダメージを受けた部分が建物全体に波及してしまう恐れがあります。
しかし「トカゲの尻尾切り」を模倣することで、ダメージを受けた部分だけを切り離し、建物の全壊を防ぐことがで可能です。
研究の詳細は2024年5月15日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。
目次
建物の破損は自然災害や車両の衝突、設計上のミスなど、さまざまな要因で発生します。
特に建物の全壊は損害が非常に大きく、中にいる人命を失ったり、のちの救助活動を困難にさせるものです。
現在の建築技術では一般的に、建物の各セクションが強固に接続されるように設計されています。
これは建物に加わった力を均等に分散するためです。
このアプローチはある程度の衝撃に対して効果的な耐久力を発揮しますが、他方で地震レベルの大きな衝撃が加わると、最初にダメージを受けた部分が全体に波及し、建物を全壊させるリスクがあります。
しかし、建物が最初にダメージを受けた部分だけを切り離すことができればどうでしょうか?
研究チームはこの着想を「トカゲの尻尾切り」から得ました。
トカゲはご存知のように、天敵に襲われると尻尾だけを切り離して逃げることができます。
トカゲの尻尾には破断面があり、攻撃を受けたときにこの部分から先だけを切り離せるようになっているのです。
それと同時に、簡単には切れないよう、ある程度の負荷には耐えられる十分な強度も備えています。
チームはこれを模倣して、建物の破損部分を分離して全壊を防ぐ新たな設計アプローチを提唱しました。
仕組みとしては、従来のように建物の各セクションをすべて強固に接続するのではなく、特定の部分にあらかじめ決められた境界線を設けることで、建物の破損によるダメージの広がりがそのラインで止まるようにしています。
これにより、境界線までの部分だけを限定的に崩壊させられるのです。
チームはこのアプローチが実際に可能かどうか、実証テストを行いました。
実験では、12×15メートルで、1階分の高さが2.6メートルの2階建て鉄筋コンクリートを建設(上図)。
これを対象物として2段階のテストを行いました。
1つ目は比較的小さな破損が起こった場合の耐久性を調べるものです。もしこれで倒壊するなら、人が安心して住むには脆弱すぎることを意味します。
このテストはフェーズ1として、隅柱の両側にある2本の柱(上図のピンクで示された柱)を抜きました。
その結果、建物に影響はなく、ある程度の衝撃には十分耐えられる強度があることが確認されています。
そして2つ目は災害レベルの破損が起こった場合の切り離しを調べるものです。
ここでは建物を支えるのに重要な隅柱(上図の赤色で示された柱)を抜きました。
その結果、チームの期待通り、破損によるダメージは境界線で止まり、建物の倒壊を部分的に留めることに成功したのです。
研究主任のホセ・アダム(Jose Adam)氏は「これにより、建物が完全に崩壊した場合に失われるであろう命を救うことができるでしょう」と話しました。
また建物の損害も少なく、その後の救助活動も容易になると期待できます。
こちらは従来の設計で建物が全壊する様子(右)と建物の切り離しを採用した様子(左)を比較したシミュレーション映像です。
チームは今後、この新たな切り離しシステムの実用化に向けて、よりスケールアップした大きな建物でも適用できるかどうかを調べる予定です。
地震災害の多い日本では「トカゲの尻尾切り建築」が人々の命を守る方法として非常に役立つかもしれません。
参考文献
How a lizard tail inspired a new building system that sheds parts to escape catastrophic collapse
https://www.zmescience.com/science/news-science/how-a-lizard-tail-inspired-a-new-building-system-that-sheds-parts-to-escape-catastrophic-collapse/
元論文
Arresting failure propagation in buildings through collapse isolation
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07268-5
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部