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調査ではまず、日光植物園に自生するノダケと半野生のイワニンジンの花を訪れる昆虫の数を調べるために、それぞれ19時間、18時間という長時間の観察が行われました。
結果、なんと15種類もの昆虫が訪れていることが確認されました。
ですが中でも最も目立ったのがキイロスズメバチでした。
このスズメバチは、次に多く見られたヤドリバエ科のコガネオオハリバエと比べると、ノダケでは約8倍、イワニンジンではなんと約30倍も頻繁に花を訪れていました。
特にノダケでは訪れる虫の62%、イワニンジンでは実に90%がスズメバチ類でした。
この結果は、スズメバチは予想以上に花に訪れていることを示しています。
そこで研究者たちはイワニンジンなどの花を訪れたスズメバチを含む昆虫を捕獲し、体を調べてみることにしました。
すると驚くべき事実が判明します。
捕獲された昆虫の体表を詳しく調べたところ、大多数の昆虫は100粒未満の花粉しか持っていない中、スズメバチはしばしば1,000粒以上の花粉を体表に帯びていることが判明しました。
このデータは、特定の花においてスズメバチの訪花頻度、運搬花粉数ともに群を抜いていることを示しており、スズメバチが重要な送粉者であることを示しています。
しかしそうなると気になるのが、スズメバチが花を訪れる理由です。
研究者たちが観察を続けたところ、スズメバチたちは蜜や花粉を目的に花を訪れる昆虫を殺して食べている様子が記録されました。
この結果は、スズメバチにとって花は狩場であり、花粉は狩りの過程で体に付着することを示しています。
ではスズメバチは結果的に花たちにとってプラスの存在なのでしょうか?
答えを得るため研究者たちは、花にスズメバチが通れないサイズの網目を持つネットをかぶせ、結実率の変化を調べてみることにしました。
すると最も結実率は「何もしない自然結実」>「スズメバチだけを排除した場合」>「全ての昆虫を排除した場合」となりました。
この結果は何もしない自然な状態(スズメバチもいる)が最も結実しやすく、次にスズメバチだけを排除した場合、そして虫を全く寄せ付けない場合にはほとんど結実しないことを示しています。
一方、イワニンジンなどスズメバチが訪れる昆虫の90%を占める花でスズメバチを排除したときには、スズメバチ以外の虫たちの訪れる数が増加しており、結実率があまり落ちないことが判明しました。
スズメバチが寄り付けない花では、安全性が高まり、他の虫たちの訪れが増えたためだと考えられます。
ただそれでも一部の花はスズメバチを含む自然結実が、最も結実率が高かったのは注目に値する結果と言えます。
スズメバチと聞くと、多くの人が恐れる害虫のイメージを持つかもしれません。
しかし、ノダケのような植物の送粉者として彼らが果たしている役割に注目することで、スズメバチは生態系内で重要な送粉者としての責任を担っていることが示されました。
スズメバチがどれほど多くの植物種の送粉に関与しているのかはまだ充分にはわかっていません。
研究者たちは今後、スズメバチの送粉者としての役割を明らかにすることで、虫による受粉の正確な全体像を掴めるようになると述べています。
参考文献
スズメバチ類に受粉される新たな植物の発見
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10318/
元論文
Hunt and pollinate: Hornet pollination of the putative generalist genus Angelica
https://doi.org/10.1002/ecy.4311
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部