- 週間ランキング
フェンク氏ら研究チームの新しい研究は、彼らが2022年に発表した別の研究が元になっています。
その研究では、「布製マイク」を開発したと報告しています。
「マイク」とは、拾った音を電気信号に変換する装置のことであり、近年では様々な形状のマイクが存在していますね。
そしてこの布製マイクでは、曲げたり変形させたりした時に電気信号を生成する繊維「圧電繊維」を布地に織り込んでいます。
この仕組みにより、近くで発生した音が布地を振動させると、圧電繊維がその振動を電気信号に変換し、音をとらえることができるというのです。
布製のマイクというだけでも非常に興味深いですが、今回フィンク氏ら研究チームは、そのアイデアを逆転させ、「布製スピーカー」を開発しました。
研究チームは、厚さ0.13mmの布製スピーカーを用いて、バッハが作曲した「アリア」を流すことに成功しています。
そして、この布製スピーカーは、防音カーテンとして機能するようです。
新しく開発されたカーテンは、人間の髪の毛よりもわずかに厚い程度ですが、布製マイクと同じく圧電繊維が使用されており、電気信号を加えることで繊維を振動させたり、音を発生させたりできます。
彼らは、この振動や音の発生を用いて、異なる2つの方法によって音を抑制できることを示しました。
1つの方法は、「逆位相の音を出して、不要なノイズに干渉させ、ノイズそのものを打ち消す」という方法です。
これは、既にイヤホンやヘッドホンに導入されている「ノイズキャンセリング」と似ています。
研究チームは、この方法を用いて、最大65dBの音量(人間の騒々しい会話やデパートの店内レベル)を低減させることに成功しました。
しかし、この技術では、狭い範囲にしか防音効果を及ぼすことができません。
そこで研究チームは、2つ目の方法を開発することにしました。
それは、カーテンを振動させる機能を用いて、音がカーテンの向こうに伝わるのを防ぐという方法です。
そもそも私たちが騒音で悩むのは、音が空気や壁の振動によって伝わってくるからです。
新しい方法では、音源と私たちの間に存在するカーテンの振動を制御することで音が伝わらないようにしています。
音がカーテンに当たると当然カーテンは振動しますが、それを打ち消すような振動を起こすことで、カーテンそのものを静止状態に保つのです。
実際研究チームは、このように布を静止させることで、鏡のように布が音を反射し、布の向こうに音が伝わるのを防ぐことに成功しました。
この2番目の方法を用いるなら、音の伝達を最大75%も低減できるようです。
しかも、1番目の方法のように防音効果が狭い範囲に限定されることなく、カーテンで区切った広い範囲に適用できます。
もちろん、これらの方法を実用化したり、組み合わせたりするためには、より複雑な信号処理や電子機器が必要になってくるため、今後さらなる研究が必要です。
それでも今回の発表は、将来的にカーテンだけで効果的に防音できる可能性を示すものであり、騒音問題に悩んでいる人やライブ配信に携わる人を助けるものとなるでしょう。
参考文献
This sound-suppressing silk can create quiet spaces
https://news.mit.edu/2024/sound-suppressing-silk-can-create-quiet-spaces-0507
Hair-thin silk fabric cancels out noise and creates quiet spaces anywhere
https://www.zmescience.com/future/hair-thin-silk-fabric-cancels-out-noise-and-creates-quiet-spaces-anywhere/
元論文
Single Layer Silk and Cotton Woven Fabrics for Acoustic Emission and Active Sound Suppression
https://doi.org/10.1002/adma.202313328
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。