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トップ画像に掲示したのは、普通のエッフェル塔のフリー画像です。
しかし、この画像をコピーして左右に並べると、右側の画像は左側の画像よりエッフェル塔が右に傾いて見えます。
この現象は、前述した通り「斜塔錯視」と呼ばれています。
斜塔錯視は、カナダのマギル大学のフレドリック・キングダム(Fredirick Kingdom)氏らにより発見されました。
2枚の画像を並べるだけというシンプルさと錯視量(錯視の効果)の大きさから、2007年にはBest Visual Illusion of the Yearで1位に輝きました。
この発表の際に使われたのはピサの斜塔が左右に並んだものだったので、斜塔錯視ではこのピサの斜塔を用いた画像が有名です。
その画像ではこの記事のトップ画像のようにピサの斜塔が右側に傾いていたため、斜塔錯視は右方向に傾く錯覚だと思っている人もいるかもしれませんが、必ず右に傾くわけではありません。
画像内の建物が左に傾いている場合は左側の画像の建物がより傾いて見えます。
また斜塔錯視は、塔などの建物以外の画像でも生じることが分かっています。
例えば、路線を走る電車の画像であれば奥から侵入してくる角度が、橋の画像であれば手前から奥に伸びていく場所が上下の画像で違うように感じられます。
ではなぜこのような現象が生じるのでしょうか。
その原因は私たちが画像を見た時の予測との不一致にあるようです。
斜塔錯視が生じる原因については、科学誌「Perception」に掲載されたキングダム氏らの論文で説明されています。
彼らは、同じ2枚の画像が並んでいるにもかかわらず、それらを1枚の画像と認識しているため、斜塔錯視が起きると考えました。
2枚の画像を同じ空間上の1枚の画像と認識してしまうと、この画像を2次元の情報から3次元の情報に変換して理解しようとする過程で問題が生じるのです。
3次元の世界を2次元に変換した写真では、カメラと被写体の距離が離れると、1つの点に収縮していくように見えます。
その収縮する1点は「消失点」と呼ばれます。
例えば、クアラルンプールのベトロナスツインタワーを下から撮影した画像を見てみましょう。
2つのタワーの輪郭(赤線)を線でなぞり伸ばすと消失点に収縮するように見えます。
しかしこの画像を見て、ツインタワーが高くなるにつれ、2つのタワーの距離が近くなっていると誰も考えません。
これらのタワーが同じ角度で建っており、平行であることを正確に認識することができます。
私たちは画像を見た時に、この消失点などを無意識に知覚することで、物体の奥行きそして大きさや、別の物体との関係性(たとえば並行か否か)を2次元の情報から推測することができるのです。
芸術の分野では、この性質を利用して、平面に描いた絵に遠近感を出すために、消失点(複数個仮定する場合もある)を決め、すべてのものがそこに収束するように描く図法があります。
通常、人は1枚の画像に対して1つの消失点を予測します。
ところが斜塔錯視では実際にはそれぞれに消失点を持つ2枚の画像が並んでいる状態のため、左の塔の消失点を予測した後に、右の塔を見るとズレが生じてしまうのです。
この本来であれば、1つの消失点に収縮するはずという予測のズレから、もう片方の塔の傾きが強調され、より傾いて見えてしまうのです。
これが斜塔錯視が生じる原因です。
斜塔錯視からわかることは、私たちは2次元の情報から3次元の情報を脳内で構成する際には、観察したものを個別ではなく、全体として認識しているという事実です。
もし個別に認識できるのであれば、それぞれのピサの斜塔を同じ傾きで知覚することができるでしょう。
斜塔錯視は、実際に撮影した写真を左右上下に並べるだけで簡単に再現できる錯視です。
誰でも簡単に作れるので、自分で撮った写真で錯視画像を作ってみると面白いかもしれません。
参考文献
The Leaning Tower Illusion
https://illusionoftheyear.com/2007/05/the-leaning-tower-illusion/
元論文
The Leaning Tower illusion: a new illusion of perspective
https://doi.org/10.1068/p5722a
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部