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コビトジャコウネズミは南アジア、南ヨーロッパの森林や低木の茂みに生息し、昆虫を主食としています。
彼らのような体の小さい哺乳類は外部の温度変化に敏感であり、体温を一定に保つために多くのエネルギー生産をする必要があるので、代謝率がとても高くなっています。
日中はほとんど常に活発に動き回って餌探しをしており、心拍数はなんと1秒あたり14回という速さで鼓動しています。
これは私たちの10倍以上の速さです。
この異常なエネルギー生産を維持するために、毎日体重の8倍もの餌を食べなければなりません。
体重70キロの人であれば、1日に560キロものご飯を食べ続ける計算です。
こうした無理な生態のゆえか、トガリネズミの寿命は約15カ月と非常に短くなっています。
では、このコビトジャコウネズミが「史上最小の哺乳類」かというと、そうではありません。
過去の地球にはこれよりもっと小さな哺乳類がいました。
それが始新世(約5600万〜3390万年前)に存在した「バトドノイデス・ヴァンホウテニ(Batodonoides vanhouteni)」というトガリネズミです。
For #SciArt week: Tiny mammals. Drew this one for NatGeo in 1999. B. vanhouteni (left), modern Etruscan shrew (right) pic.twitter.com/ll1Za98WqZ
— Jen Christiansen (@ChristiansenJen) March 5, 2015
こちらの写真は現生するコビトジャコウネズミとサイズ比較したもので、左がB. ヴァンホウテニの復元イメージとなります。
B. ヴァンホウテニの化石は1998年に米ワイオミング州とカリフォルニア州の地層から初めて発見されました。
見つかったのは歯の化石でしたが、その大きさはなんと1ミリ未満しかなく、全体の正確な大きさは推定できていないものの、体重はわずか1.3グラム程だったと見られています。
これは1円玉(1グラム)とほとんど変わらない軽さです。
化石発見に関わった研究者たちも「B. ヴァンホウテニはこれまで知られている中で、最も小さな陸生哺乳類とみて間違いないだろう」と述べています。
本種がどんな生態をしていたかは不明瞭ですが、おそらくコビトジャコウネズミと同じように「早く生きて早く死ぬ」をモットーにしていたでしょう。
しかし最小がわかると今度は最大が気になるのが人間の性というもの。
ただ哺乳類を全部ひっくるめて最大というとシロナガスクジラで決まりですが、ここでは地上に存在した「最大の陸生哺乳類」という括りで見ていきましょう。
現生種の中でいうとアフリカゾウが最大の陸生哺乳類であり、全長6メートル、体重5〜7トンとなっています。
しかし2021年に、中国北西部の地層からとんでもないモンスター級の陸生哺乳類の化石が発見されました。
それが「パラケラテリウム・リンシアンス(Paraceratherium linxiaense)」というサイ科の動物です。
パラケラテリウム属はユーラシア大陸を中心に約3600万〜2400万年前まで存在した角のない巨大サイの一群で、P. リンシアンスは同属の中で6番目に見つかった新種となります。
サイ科ではあるものの、首が長くて足も細長く、どちらかというとウマに近い見た目をしていました。
パラケラテリウム属の平均的なサイズは体長7メートル、体重11〜20トンとされていますが、P. リンシアンスは体長8メートル、体重24トンというモンスター級の体格だったと推定されています。
これは体重だけでいうとアフリカゾウの3〜5頭分とほぼ同じ重さです。
また研究者は「木の葉っぱを食べるために後ろ足で立つと、その高さは7メートルに達したでしょう」と話しています。
P. リンシアンスの大きさは現代のゾウやサイとは比べものにならず、現時点では「地上を歩いた史上最大の哺乳類」と考えられるでしょう。
このように過去の地球には、私たちの常識を超えるほど小さな、あるいは大きな哺乳類が存在しました。
近年では他にも、シロナガスクジラの2倍も重い哺乳類まで見つかっています。
詳しくはこちらをご参照ください。
参考文献
The Smallest Mammal In The World Lived 53 Million Years Ago
https://www.iflscience.com/the-smallest-mammal-in-the-world-lived-53-million-years-ago-74063
New Fossil Reveals One of The Largest Land Mammals Ever Found, And It’s a Rhino
https://www.sciencealert.com/giant-rhino-fossil-from-china-was-one-of-the-largest-mammals-to-walk-the-land
元論文
An Oligocene giant rhino provides insights into Paraceratherium evolution
https://doi.org/10.1038/s42003-021-02170-6
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。