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オランダのアムステルダム大学(University of Amsterdam)の2023年の研究によると、血管を弛緩させる機能が低下すると動脈硬化を発症するリスクが高まると分かっています。
そしてそれが心臓病や脳卒中のリスクを高めることにも繋がるというのです。
こうした報告を考慮すると、怒りは血管の弛緩する機能に影響して心血管疾患に繋がっている可能性が考えられます。
そこで今回、シンボ氏ら研究チームは、怒りなどの否定的な感情と「血管の弛緩(または拡張)」にどのような関連性があるのか調べることにしました。
今回の研究では、平均26歳の健康な成人280名を募集し、実験に参加してもらいました。
実験では、最初に参加者たちに30分間静かに座ってリラックスするよう求め、その後、血圧、心拍数、血管の拡張を測定し、血液サンプルを採取しました。
次に、参加者たちが4つのグループに割り振られ、それぞれが8分間、下記の指示を実行しました。
この8分間のタスクを完了した後、実験開始時と同じ測定が、その直後(0分)、3分後、40分後、70分後、100分後に実施されました。
その結果、怒りを感じた過去の出来事を思い返したグループでは、その直後から最大40分間、血管の細胞が拡張を阻害する変化を引き起こすと分かりました。
つまり、人は怒りを感じることによって、その後40分間は血管を弛緩しにくくなるのです。
そして、40分以降の計測では、血管の機能が通常の状態に戻っていました。
また、不安や悲しみを感じさせるタスクでは、どの時点でも血管に有意な変化は見られませんでした。
今回の結果とこれまでに行われてきた研究から総合的に考えると、怒りは、血管が弛緩して拡張するのを阻害することで動脈硬化のリスクを高め、結果として心臓病や脳卒中のリスクをも高める可能性があると言えるでしょう。
「怒りっぽい人は心臓病になりやすい」などとよく言われますが、今回の研究はそのメカニズムに光を当てるものとなりました。
しかしシンボ氏は、「怒りで血管の機能不全が起こることは分かったが、こうした変化の原因はまだ分かっていない」と述べています。
「怒りがどうして血管の弛緩を妨げるのか」といった疑問を解明するには、さらなる研究が必要なのです。
ちなみに、今回の実験では、不安や悲しみが血管機能に悪影響を及ぼすことはありませんでしたが、こうしたネガティブな感情が健康に悪影響を与えないと言うわけではありません。
実際、強い悲しみやそれに似た感情は、「たこつぼ型心筋症(前触れなしに胸痛や息切れがする心臓病)」を引き起こすことが分かっています。
また、そもそも今回の研究には限界がありました。
シンボ氏は、「参加者たちが若く健康だったため、今回の研究結果が、健康上の問題を抱え、薬を服用しているような高齢者に当てはまるかどうかは不明です」と付け加えているからです。
いずれにしても、現時点で私たちは、特に怒りの感情には気を付けた方がよさそうです。
怒りで血管がドクドクと脈打った感じがするのは、血管が狭まっている事に起因する可能性があります。
そのため頻繁にイライラしていると、血管はいつも弛緩できない状態になり、心臓病や脳卒中のリスクを高めてしまいます。
文字通り、血管がすぐに「ぶちキレる」ことはないかもしれませんが、動脈硬化に起因する「脳出血」によって、いずれ本当に「キレる」恐れがあるのです。
参考文献
Brief anger may impair blood vessel function
https://newsroom.heart.org/news/brief-anger-may-impair-blood-vessel-function?preview=104b&preview_mode=True
Angry? Your blood vessels pay the price, new study demonstrates
https://newatlas.com/health-wellbeing/anger-cardiovascular-health/
元論文
Translational Research of the Acute Effects of Negative Emotions on Vascular Endothelial Health: Findings From a Randomized Controlled Study
https://doi.org/10.1161/JAHA.123.032698
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。