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ところが残りの2人はまったく様子が違いました。
この2人は若い女性で、首と両足首が後ろ手を介するような形できつく結ばれていたのです。
その体勢で横に寝かされますと、よっぽど体が柔らかくないかぎり、両足首が紐を引っ張って自然と首を絞めてしまいます。
研究者によると、これはイタリアのマフィアが見せしめや警告のために行う「インカプレッタメント(incaprettamento)」という殺人手法と同じだという。
さらに2人の女性の上には大きな岩の重しが乗せられていました。おそらく生き埋めにした後に身動きできなくするためのものと考えられます。
あまりに陰惨で残虐な手口です。
なぜ古代人はこのような残忍な方法で女性たちを生き埋めにしたのでしょうか?
研究者によると、3人の女性が見つかった場所はただの平凡な埋葬地ではありませんでした。
3人の女性は穀物などを保管する「サイロ」という貯蔵庫を模した大型の容器の中に埋葬されていたといいます。
さらにその上には地中に埋められたサイロを覆う形で、木造の構造物が建てられていました。
加えて、その木造の構造物は夏至の太陽の通り道と一致するように建てられ、日の出の光がサイロに取り込まれるように設計されていたのです(下図を参照)。
それからサン=ポール=トロワ=シャトーに見られる他の埋葬地には、遠く離れた場所から集められた動物の骨や出土品などが多数見つかっています。
これらを踏まえてチームは、この地域が人々の多く集まる「儀式の場」であり、3人の女性は農業に関連する儀礼のために、神への捧げ物として人身御供にされた可能性が高いと結論しました。
ただその方法として、なぜインカプレッタメントのような残忍な方法が取れられたのかは定かでありませんが、研究者らは「誰かによって殺められるのではなく、自分自身の体の力で首を絞めて死に至ること」が重要視されたのではないかと見ています。
古代人の目には、このような亡くなり方が自らの命を自らの意志で神に差し出しているように映ったのかもしれません。
さらにチームが調査を進めてみると、インカプレッタメントの手法は今回の例より遥か昔から古代ヨーロッパで度々行われてきたことがわかってきました。
チームは今回の発見を受けて、ヨーロッパ各地で見つかっている埋葬地の遺体に関する文献を調べてみたところ、インカプレッタメントを使った遺体が14カ所の遺跡で20件も見つかったのです。
最も古い例はチェコ共和国の遺跡で見つかった紀元前5400年のもので、最も新しい例が今回のサン=ポール=トロワ=シャトーで見つかった紀元前3500年のものでした。
これはつまり、インカプレッタメントの手法が少なく見積もっても2000年にわたってヨーロッパ各地で行われてきた普遍的な慣習の一つであることを示唆しています。
さらにそれだけではありません。
チームはイタリア南部に浮かぶシチリア島のアダウラ洞窟の中で紀元前1万4000年〜1万1000年の間に描かれたと見られる壁画を記述した文献を見つけました。
そこになんとインカプレッタメントの方法で縛り首にされた2人の人間の姿が描かれているのが発見されたのです。
実際の遺体までは見つかっていませんが、これはイタリアマフィアの用いる残虐な処刑方法が1万年以上も前の古代人の儀式に起源を持っていた可能性を示しています。
またマフィアとはシチリア島を起源とする組織的な犯罪集団のことです。
もしかしたら、この壁画が見つかったアダウラ洞窟こそがインカプレッタメントの発祥の地なのかもしれません。
参考文献
Neolithic women in Europe were tied up and buried alive in ritual sacrifices, study suggests
https://www.livescience.com/archaeology/neolithic-women-in-europe-were-tied-up-and-buried-alive-in-ritual-sacrifices-study-suggests
Investigation of Tomb Burial Reveals Sick Neolithic Ritual Sacrifices
https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/neolithic-ritual-sacrifices-0020629
元論文
A ritual murder shaped the Early and Middle Neolithic across Central and Southern Europe
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adl3374
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。